慶応義塾大学が2023年をめどに東京歯科大学を統合し、歯学部を新設するという。慶応にはすでに医学部、看護医療学部、薬学部があり、いずれも私立の最難関とされている。歯学部を加えることで医歯薬が揃い、この分野の研究や教育がより充実する。国際的競争力が高まるばかりでなく、国内での慶應ブランドは天井知らずとなるはずだ。
対して、私学の両雄のもう一方の早稲田大学には、この分野の学部が一つもない。「早大医学部」創設は、長らく同大の悲願であり、実際に2018年には、単科医科大学の合併による「医学部新設構想」を掲げた田中愛治氏が、総長に就任した。共立薬科大学を合併することで2008年に薬学部を新設したライバル慶応の躍進が念頭にあったと思われる。
現在の30代後半から40代が大学受験をしていた頃までは、早稲田の「バンカラ」気質に魅力を感じて、とにかく「ワセダに入りたい」という学生も多かったかもしれない。特に、地方の高校生にとって、早稲田は憧れの的だったはずで、医歯薬系の学部がなくとも、十分に早稲田ブランドは浸透していた。
しかし、大学にもグローバル化の波が押し寄せる昨今、医学部を持つ総合大学でないと、海外の一流大学と同じ土俵にすら上れず、国内のみならず海外からの留学生への訴求力に劣る。また、近年の異常なほどの医学部志向で優秀な高校生がこぞって医学部を目指す現状では、医学部なくしては、国内外の優秀な学生を集めにくい。それでは、伝統の早稲田の看板が泣くというものだろう。
医歯薬系学部の有無は、大学受験で早慶の雌雄を分けるだけでなく、影響は小学受験、中学、高校受験にも及ぶ。定員厳格化により年々難化の傾向にある私立大の受験を避けるため、ここ数年、大学付属校の人気が高まっている。
慶応大は元からある医学部に加え、単科大学の合併で薬学部、歯学部を新設することで、義塾高、慶応女子高など付属校生徒の進路選択の幅が広がる。医歯薬すべての学部への進学が可能になり、慶大付属校の魅力、ブランド価値も高まる一方だ。
一方、慶応と同様、私大付属の最難関とされる早大付属校の生徒は、医歯薬学部進学を希望する場合、せっかく得たエスカレーター式大学進学の権利を放棄して、外部受験するしかない。
今年9月、早稲田実業学校高等部と日本医科大学(文京区)は高大接続に関する協定を結び、ごく限られた人数ではあるものの、同高等部から日本医科大への進学が可能になった。しかし、激戦を勝ち抜いて付属校に入った生徒たち、またその保護者にとって、早稲田の名を冠さない医学部にどの程度の魅力があるかは未知数だ。
早大付属校に子どもを通わせる保護者からは、「同級生には医療従事者のお子さんも多いのに、医師になるための選択肢が限られているのが残念。医歯薬全てそろう慶応はさすが、羨ましい」という声が聞かれた。
早大と共同大学院を設置する東京女子医大や、女子差別入試問題で補助金がカットされた東京医科大学(いずれも早大と同じ新宿区)、さらには先述した日本医科大学など、複数の大学が合併相手の候補に取りざたされている。早稲田が悲願を達成する日も近いのか。今のままでは、慶應の一人勝ち状態が続く。