新型コロナウイルスに感染した人が世界中で約6100万人、死者は140万人を超えている(11月27日時点 リンク )。感染を防ぐために、国レベルあるいは地域レベルで活動停止状態(「ロックダウン」)にする場合も多く、経済への打撃も大きくなるばかりだ。
しかし、最近になって明るいニュースが入ってきた。今月9日、米製薬大手ファイザーとドイツのバイオ企業ビオンテックが新型コロナのワクチンについて最終段階となる第3段階の臨床試験で「90%超の有効性がある」という暫定的な結果を発表した。続いて16日には米製薬大手モデルナが、開発中のワクチンについて「94.5%の有効性がある」とする暫定的な結果を公表。
今すぐ、コロナの感染を防止するわけではないものの、将来に光が見えてきたといえよう。世界中で他にも多くのワクチンが開発中となっており、今回の発表に続く成功例が年内にも出てくる可能性がある。
米国、筆者が住む英国、そして日本など各国政府は開発中のワクチンの供給を確保しているが、果たしてその国の富裕度にかかわらず、本当に必要な人に接種の機会が与えられるだろうか。
ワクチンを各国に配布する役割を果たしてきた非営利組織「国境なき医師団」は、各国政府が開発中のワクチンを「囲い込む」形で購入していく動きについて、このような行動は「豊かな国による、(自分たちの国民を重視する)『ワクチン国家主義』に向かう危険な兆候」につながる、と警告する(BBCニュース、11月9日)。
裕福な国が次々とワクチンを買っていけば、貧しい国への供給が滞る可能性が生じてしまう。裕福な国の国民が貧しい国の国民に優先していいのだろうか。
共同購入の仕組み「COVAX」
この問題を解決する、一つの試みがある。
新型コロナウイルス感染症のワクチンを共同購入するための国際的な仕組み「COVAXファシリティ」(厚生労働省資料)である。
WHO、そして感染症への対応組織「CEPI」(感染症流行対策イノベーション連合)や「 GAVIワクチンアライアンス」(低所得国の予防接種率の向上によって、子供たちの命と人々の健康を守ることを目的とする)が主導する。
これまでに日本を含む94カ国が参加しており、年内に20億ドル(約2,084億円)を集め、これを使って世界中に公正にワクチンを配布することを目指す。WHO脱退を表明した米国はこの枠組みに参加していない。
高・中所得国が自ら資金を拠出し、自国用にワクチンを購入する仕組みと、国や団体などの「ドナー(資金提供者)」からの拠出金により途上国へのワクチン供給を行う仕組みを組み合わせた形になっている。
以下は厚生労働省による概念図だ。
11月13日付のCOVAXリリースによると、すでに20億ドルを超える資金が集まっている。欧州連合、フランス、スペイン、韓国の拠出金のほかに、米ビル&メリンダ・ゲイツ財団からの寄付金(1億5,600万ドル=約162億円)が大きい。
COVAXは拠出金を基にアフリカ、アジア、ラテンアメリカの92カ国に「迅速、公正、公平な」アクセスを保障する予定だ。来年末までに少なくとも1種類のワクチン20億回分を供給することを目標としている。
価格はどれぐらいになるか?
ワクチンの価格はどれぐらいになるだろう?
ワクチンの種類、各メーカー、注文する回数によって変化しそうだが、フィナンシャル・タイムズ紙の報道(10月23日付)や先のBBCニュースを参考すると、米モデルナの場合、1回分ごとに37ドル(3700円)ほどになりそうだ。
英オックスフォード大学と共同でワクチン開発中の英製薬会社アストラゼネカは、当面「経費が負担できる程度」とし、1回分2-4ドルになる見込み。
フランスの製薬会社サノフィの場合は1回で10ドルという予想が出ている。
インドのワクチンメーカー、セラム・インスティチュートはビル&メリンダ・ゲイツ財団やGAVIから支援を得て、インドおよび中低所得の国にワクチンを提供することになっている。最も高くても1回分に付き3ドルと限定されている。
「裕福な国が貧しい国の分を負担するべき」と考えるのが財団のビル・ゲイツ氏だ。
フィナンシャル・タイムズのインタビューの中で、同氏は「価格は3つのレベルにするべきだ。経費の大部分を裕福な国が負担し、中程度の所得の国が経費の一部を払う、貧困国はごく僅かを負担する形」を提唱している。
しかし、ワクチン接種を受ける人がこの金額をそのまま払うわけではない。例えば、筆者が住む英国の場合、国営の「国民医療サービス(NHS)」を通じて接種を受ける。NHSでは診察料が原則無料で、ワクチン接種も無料の範囲内になりそうだ。
誰がワクチンの接種を先に受けるのかだが、英国では今のところ、高齢者や医療関係者が優先される。ワクチンが広く行き渡るようになるにつれて、次第に適用年齢層を下げていく。
COVAXファシリティでは、低中所得国の人口のまず3%が接種できるようにする。高齢者を優先しながら、20%まで増やしていくという。
英国では年内には一部の人がワクチンの恩恵を受けることになるが、多くの人に行き渡るまでには数か月以上かかる。ひとまずは、感染を防ぐための行動を続ける日々となりそうだ。
編集部より;この記事は、在英ジャーナリスト小林恭子氏のブログ「英国メディア・ウオッチ」2020年11月27日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「英国メディア・ウオッチ」をご覧ください。