「環境保護ワクチン」出来るだろうか

欧州は目下、新型コロナウイルスの新規感染者の増加対策に奔走中だ。欧州各国は程度の差こそあれロックダウン(都市封鎖)を実施している。オーストリアでも先月17日から、24時間の外出制限など第2ロックダウンの追加措置が施行中だ。期間は一応、来月6日まで。新規感染者数は7、8000人台から4000人前後に落ち着いてきたが、懸念は死者数の増加だ。連日100人を超す死者が出ている。集中治療患者数も700人前後で、まだ減少の兆候は見られないことだ。そこで同国では今月に入り、新型コロナのマステストを実施して、統計に出てこない潜在的感染者数の掌握に努力している。

(Geber86/iStock)

(Geber86/iStock)

希望はワクチンだろう。欧州連合(EU)では年明けから新型コロナ感染症のワクチン接種が始まる見通しだ。英国は7日にもワクチン接種を開始するなど、ワクチンがコロナ禍の欧州人を解放してくれるといった希望が膨らんできている。オーストリアでは来年1月中旬からワクチン接種を開始し、3月までにはワクチン希望者には接種できるのではないかという。

ここまで書いてきて、ふと考えた。中国武漢発の新型コロナウイルス(COVID-19)はワクチンが完成すれば、根治こそできないが、他の感染症と同様、通常の日常生活に支障ない程度に抑えられるだろう。ところで、新型コロナ対策と同様、地球温暖化対策が控えているが、環境対策の“ワクチン”は出てくるだろうか。環境保護ワクチンの開発に取り組んでいる国があるとは聞かない。ひょっとしたら、既に遅すぎるのではないか、といった一抹の不安も感じる。

日本政府は先日、ガソリン車の新車販売を2030年半ばまでとし、それ以降は電気自動車(EV)しか販売できないようにすることで、温室効果ガスの削減を目指す意向を明らかにした。これまた、欧米の主要自動車メーカーも既にEVに切り替えてきている。環境対策の一貫として歓迎されるが、それだけではもちろん十分とはいえない。

スウェーデンの環境保護活動家グレタ・トゥーンベリさん(17)を持ち出すまでもなく、人類の未来は環境保全にかかってきている。それもワクチン製造のような短期集中戦ではない。何世代にも渡る長期戦となるだろう。それだけに首尾一貫してその前線で戦い続けることはかなり厳しい。

人類は歴史を通じて戦い続けてきた。小規模な氏族間、地域間、そして民族間、国家間、そして今では宇宙戦争といわれるスター・ウォーズまで戦場は広がってきた。全ては戦いだ。意見の相違からくる論争から、利害関係で激しい争奪戦が繰り拡げられてきた。その度に膨大な犠牲を払ってきた。そして今、その戦場と化した地球の環境悪化という事態に直面して、ようやく環境保全問題が人々の関心を呼び起こしてきたわけだ。それも重い腰を持ち上げるようにだ。

▲2019年に入って火災が起きた地点を示す画像(ウィキぺディアから、NASA撮影)

▲2019年に入って火災が起きた地点を示す画像(ウィキぺディアから、NASA撮影)

ブラジルからの外電を読んでいたら、「世界の肺」と呼ばれるブラジルの大森林が火災や違法伐採で急速に破壊されてきているという。と、ここまで書いて突然閃いた。それは新型コロナウイルスが2019年から今年にかけて猛威を振るいだした現象と同時進行だということをだ。COVID-19に感染すると、人は肺の機能をやられ呼吸困難に陥る。「世界の肺」と呼ばれるブラジルの森林破壊現象はわれわれの前にそれを見せているのだ。人類はCOVID-19に感染しなくても、呼吸困難な状況に一歩一歩近づいているわけだ。

ここでまた旧約聖書「アモス書」の聖句を持ち出すことを許してほしい。「まことに主なる神は、そのしもべである預言者にその隠れた事を示さないでは、何事をもなされない」(3章7節)という聖句が蘇るのだ。時代の移り変わりの時、必ずそれを暗示する何らかの出来事、現象がキャッチできるという内容だ。

人は生きることに没頭し、自身がお世話になっている地球が呼吸困難な状況に陥っていることを忘れてきた。だから、2020年の新型コロナ大感染は世界最大の人口大国中国から発生したのも偶然ではないだろう。同時に、ブラジルで新型コロナ感染者数が世界的に多いのも偶然ではないはずだ。

「アモス書」の論理からいくと、新型コロナとブラジルの森林破壊は、神、ないしは“サムシング・グレート”からの警告だったのではないか、というわけだ。燃え上がる森林は新型コロナウイルスに感染した人間の肺機能を黙示録的に示しているともいえるわけだ。

新型コロナウイルスのワクチンが出来れば、次は地球環境保護用ワクチンの製造に向けて人類は知恵を総結集して取り組むべきだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年12月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。