随意契約と官製不正:青森県西目屋村長逮捕

西目屋村役場(11月まで使用の旧庁舎、撮影:アラツク/Wikipedia)と関和典村長(村役場サイト)

青森県西目屋村の村長が逮捕された。容疑は官製談合防止法違反という。筆者はアゴラで何度も言及してきたように、現在よくみる官製の入札不正の典型は(特定の業者を優遇する)「抜け駆け型」であり、業者間の談合に手を貸すタイプのものではない。

ただ、適用される法律が「官製談合防止法」と呼ばれ、名前を聞いただけでは何の容疑だかよく分からないのである。この法律の正式名称は「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」である。

ここで問題になっているのは、「職員による入札等の公正を害すべき行為」の方である。業者側の役員は刑法における公契約関係競売入札妨害の疑いで逮捕されている。

村とはいえ首長の逮捕なのでニュースの扱いは自然と大きくなる。

加えて、この村長は、「世界自然遺産の白神山地を生かした観光政策のほか、新型コロナウイルス対策として全国民に現金10万円を給付する国の緊急経済対策で、全国に先駆けて配ったことなどで知られる」(読売新聞オンライン2020年12月4日)とのことである。なかなか行動力がある首長のようだ。最近メディアで取り上げられた首長ゆえに不祥事の際も扱いが大きくなるということだろう。

具体的な容疑はどのようなものだったか。読売の記事によれば、村長は「7月中旬頃から下旬頃、村給食センターで使用する冷却機を借りる随意契約で、複数業者から見積もりを取る際」、意中の「会社に有利になるよう不正に取り計らった疑い」なのだという。その業者は「他の業者より低い価格で見積もりを提出し、契約を受注。今年9月1日~2025年8月31日の間、総額547万8000円を受け取るリース契約を村と締結した」とのことである(以上同記事より)

ここで官製談合防止法の適用に関連して2点、触れておこう。

第一が官製談合防止法は随意契約でも適用されるということである。その名前から競争入札のみが対象となりそうであるが、そうではなく、競争の要素があれば随意契約でも問題になり得る。刑事罰規定を定める同法8条は次の通りである。

職員が、その所属する国等が入札等により行う売買、貸借、請負その他の契約の締結に関し、その職務に反し、事業者その他の者に談合を唆すこと、事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示すること又はその他の方法により、当該入札等の公正を害すべき行為を行ったときは、5年以下の懲役又は250円以下の罰金に処する。

「当該入札等の公正を害すべき行為」の「等」に、随意契約が含まれる。「その公正を害すべき」とは適正な競争手続の下で契約者が決まるべきところがそうでなく不当に人為的に決められることになる、ということを指す。意中の業者が受注者となるように競争を歪める形で取り計らうことが問題なのであり、本件では恐らくであるが他の見積もり業者の情報を教えたか、示唆的な何かをしたのであろう。

上記記事には不正を働いた業者が「他の業者より低い価格で見積もりを提出」とある。見積合わせなのだから他の業者よりも安くすれば有利になる。業者にとって値段は高い方がよいに決まっているが、他の業者が安ければ仕方がなく、それよりも安くするしかない。

「一番安いのだから問題ないのでは」という反論もあるだろうが、談合罪ならば(その要件である「公正な価格を(する)目的」として)「不当な値段の吊り上げ」が問題になるといえるが、公契約関係競売入札妨害とセットで出てくる官製談合防止法にいう「その公正を害すべき行為」は、手続的公正もその射程に入り得る。単に他よりも安いから違法ではない、という訳にはいかないのだ(ただ、悪質性、重大性の評価には影響があるだろう)。そうでなくても、他の業者の価格を知れば、自らの値引き価格を抑える効果もあるのだから部分的には値段上昇効果があるともいえる。

さらに重要な点は、一度契約してしまえば、価格低下の損失を埋め合わせるような「契約変更」の可能性があるということだ。仮に官民間で癒着があるというのならその後の契約変更で1.5倍、2倍に契約金額が変更される危険はある。

当初契約が「安い」場合で、契約変更によって契約金額が「高く」なっているケースは慎重にウォッチすべきだ。ヒントはたくさん転がっていると思う。発注機関はあれこれ説明する準備を整えてくるだろうが、それをいかに突破するか、捜査機関の腕の見せ所である。もちろん冒頭のケースがどうなるかは分からない。記事によれば認否は不明とのことである。