住宅ローンの競争は熾烈であるが、多くの場合、新規の住宅ローンの供給ではなくて、他の金融機関からの借り換え、貸す側の立場からいえば、貸し換えの競争であるから、新規の住宅供給という経済効果はなく、金利引き下げ以外に付加価値提供のない過当競争により、金融機関の収益を圧迫しているだけである。
住宅ローンの借り手にとっては、金利が下がれば可処分所得が増大するわけだが、実際には、超低金利が長期間続いている状況下で、限界的な金利負担の削減は極めて小さく、経済効果はないも同然であって、むしろ、金融機関の収益が圧迫されることによる負の効果のほうが大きいのである。
昭和において、住宅は、経済成長を支える重要な分野であり、国民所得と大衆消費の急拡大を背景に、究極の高額消費財として、市場形成されたのであり、住宅ローンは、その供給を支えることで、経済成長に大きく寄与してきたのである。しかし、超成熟社会に転じた今日、経済成長期に大量に作られた住宅の老朽化と廃屋化が深刻な社会問題となっているなかで、旧態依然たる住宅ローンは、社会的に何の役にもたっていない。
超高齢化社会のもとでは、耐久消費財としての住宅は適合しない。年金生活の老人世帯にとって、子供がいる家族構成を前提に作られた住宅は大きすぎ、老朽化によって修繕費が嵩み始めるときに建て替えるという前提は崩壊している。
そもそも、人間を中心に考えて、家族構成の変化に応じて住宅を建て替えるのは、社会的にみれば著しく非効率である。ところが、無駄な消費こそ経済成長の動力という意味では、経済的には有効であった。成熟経済社会になれば、無駄を排して効率性を高めるほかなく、住宅を中心に考えて、人口動態に応じた半永続的に使える資産性のある住宅の供給を確立し、人間が家族構成に応じて住み替えるようにすべきである。
つまり、老朽化に対しては、消費財として、建て替えで対応するのではなくて、資産として、改築や修繕で対応するということである。これを住宅ローンの側面からみるならば、現状では資産性がなくなるという前提のもと、事実上の消費者ローンとなっているのに対して、資産性が維持されるという前提のもと、資産担保ローンへ転換させるということである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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