米国では、食品医薬品局(FDA)が米製薬大手ファイザーと独ビオンテックの新型コロナウイルス向けワクチンの緊急使用を承認すれば、早々に出回ることになります。12月8日には、FDAが安全性を効果をめぐり基準を満たしたと発表、まもなく承認する見通しです。
ワクチン承認後は、保存など物理的な問題もさることながら、アメリカ人にとって注目は企業がワクチンを義務化できるか否かです。アメリカ人の世論調査をみると、感染者が過去最多を更新するなか、11月に60%と8月時点の51%を上回り、ワクチンへの見直しが進む状況。逆に言えば、約4割のアメリカ人は否定的なんですよね(トランプ大統領の支持率と重なるような気がするのは、筆者だけでしょうか)。オバマ氏やブッシュ氏、クリントン氏など米大統領経験者3名が、安全性と効果への信頼感の向上を狙い生放送でのワクチン接種に応じる姿勢を表明したのは、こうした世論調査の実態を踏まえたものでしょう。
企業経営者にしてみれば、こうした動きは大歓迎でしょう。なぜなら、米法律専門誌ナショナル・ロー・レビューでも取り上げるほど、経営者の間で従業員にワクチン接種を義務化させるアイデアが広がりつつあるのですよ。特に、対人型サービスを提供するレストラン、デリ、その他飲食店や食料品メーカーなどで顕著で、オーストラリアで言えばカンタス航空は国際線の乗客にワクチン接種を求める方針を表明済みです。
特にカリフォルニア州など一部地域で外出制限措置が再開する状況下、閉鎖を余儀なくされる企業にとってワクチン接種は希望の光ですよね。一部のレストランを始めとする経営者は、従業員にワクチン接種を義務化すれば、他店舗より優位に立ち顧客を取り込めると予想しているもよう。しかも、カリフォルニア大学ヘイスティングス法科大学院のレイス教授によれば、民間企業は従業員に対し広範囲の権利を有し「ワクチン接種の要請は、健康と安全を確保するルールとして従業員に課すことが可能」なんだとか。コストが自腹となれば、余計に反対されること間違いありませんが、交通費が自己負担である事実を踏まえると、そうなりそうな可能性大。
しかしながら、そこは自由の国アメリカ。妊娠した女性など以外にも、従業員に拒否する権利を与えています。例えば労働組合が存在すれば団体協約上、ワクチン接種の義務化に対し交渉の必要性が生じます。
あるいは、差別禁止法を活用しワクチンが身体的なワクチン接種を回避できます。典型的な例は1990年7月、ブッシュ政権で成立した”障害のあるアメリカ人法”で、医療上の理由でワクチンを拒否することが可能です。
もうひとつ、1964年7月に故ケネディ大統領の推進によりジョンソン政権で成立した市民権法の第7編に基づけば、宗教的信条の理由でワクチン接種を回避できます。
さりはさりとて、ワクチン接種を義務化するような会社を辞めてしまう従業員も少なくないでしょう。そうなれば義務化よりも、検温義務の免除などインセンティブを与えた方がいいのでしょうね。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年12月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。