連載㉑第3波ピークアウト後の短期予報:モンテカルロシミュレーションで検証

仁井田 浩二

日本の第3波も無事ピークアウトかと思いきや、高止まりが続いています。年末に向けてピークアウト後の状況を短期予報します。本連載では適時、検証に用いたベンチマークのデータと共に予報値を出してきましたので、今後もグーグルのような日々刻々と変わる予報数字ではなく、検証可能な値で短期予報を示していきます。

1.日本の短期予報

前回の予測は、11月13日のデータで調整したもので、データはその時のピークアウトの予測線にほぼ乗ってきています。本日の予測は、11月25日と12月2日の厚労省のデータを用いて微調整した結果です。2月初めまでプロットしていますが、次にくる波についての予測はできませんので、今後1ヶ月が予報範囲です。

赤線が陽性者のデータ、黒線がシミュレーションの結果、同じ図に計算で求めた「実効感染者」数を紫線で示しています。現在、重症者数が医療での大きな問題になっていますが、連載⑳で示しましたように、この「実効感染者」は重症者(水色線が厚労省のデータ)の7日前の非常に良い先行指標になっています。この計算では、ピークアウトの設定は、感染日ベースで11月20日です。

図2は、陽性者(赤線)と共に死亡者のデータ(青線)と、それぞれの計算値、「実効感染者」、厚労省の重症者のデータを、対数表示で示しています。この図は、重症者の4%がちょうど死亡者数の変位に一致すること、また重症者の-7日シフトが「実効感染者」に重なることを示しています。

表1に、11月25日、12月2日のデータと計算値、12月9日と12月31日の予測値をまとめます。今回の予測の様に速やかに下降することを願っていますが、この高止まりには、不安材料もあります。ドイツ、スウェーデンのところで少し述べます。

2.数値シミュレーションの検証

本連載で用いているシミュレーションは、ある関数形でデータをフィッティングしているものではありません。現象を記述する数理モデルがあって(崩壊項と衝突項のある一体のボルツマン方程式です)、コロナの感染拡大の要素となる現象、人から人への感染と、感染者自身の内部で起こる発症、入院、回復もしくは死亡という現象を、モデル化し数値的に解いているものです。

素過程のはっきりしている物理現象とは違い、コロナ感染拡大の現象には、分からない要素がたくさんあります。それらの要素を既存のデータを再現するように決めます。特に不明なのが感染率の時間変化、ピークアウトを決定づける要因です。これが分からないので、データを再現するように決めていきます。

この時、大事なことは、参照するデータの種類を複数準備することです。ここでは、陽性者数と死亡者数です。両者を同時に再現することが求められます。数値シミュレーションの検証には、複数の既存データの再現性が極めて重要になります。

予測には常に誤差が伴いますが、既存のデータの再現性の検証なしには、誤差判定もできません。新型コロナの感染初期の頃は既存のデータも少なく、誤差が大きいのは致し方ないのですが、現在、世界中の様々なデータが取得できる時期に、これまでの数理モデルの予測の検証が行われていないことは大きな問題です。

一年の国家予算規模の対策が行われている訳ですが、これらは、直接の被害の復旧ではなく、予測をもとに施行された疫学的予防措置によるものだからです。

日本以外の現在の状況も見てみましょう。

3.ベルギー、フランス、スペイン、米国

ベルギー、フランスは日本の第3波に相当するピークが11月の初めにピークアウトし、現在、感染は順調に収まってきています。

スペインも第2波から連続的に第3波が上昇しましたが、これも10月下旬にピークアウトし、現在だいぶ収まってきています。

米国は、第3波が急上昇して1日20万人もの陽性者を数えました。最近ピークアウトの兆候がありましたが、再び上昇し、高止まりになるのか、下降するのか、今後の動きが気になるところです。

4.ドイツ、スウェーデン

ドイツとスウェーデンは、ピークアウトかと思いきや、一向に下降しないで週変動毎にほぼ同じ高さを4週、5週続けています。この振舞は、これまでにない動向なので、今回の変種に独特なものなのか、ドイツ、スウェーデンの対策によるものなのか、検証が待たれます。米国のピークもこのような兆候が少し見られますし、特に日本の最近の挙動は類似性が感じられますので、先行事例として注視しています。

5.イスラエル、ブラジル

ここまでが、前回の連載の予測線をそのまま、もしくは微調整したものを載せたものですが、次のイスラエルとブラジルには、以前の予測には兆しもなかった新しい波が現れてきています。おそらく、ヨーロッパや日本で広がっている第3波に相当するものと思われます。ロックダウンの厳しかったイスラエルや、南半球のブラジルにも、だいぶ時期は遅れていますが、新しい波が始まっているようです。まだ端緒しか見えないので、ピークアウトの予測線の根拠はありません。

6.オーストラリア

最後にオーストラリアです。解析を行っている10カ国の内、唯一第3波の兆候が全くない国です。南半球で厳しいロックダウンで感染者数も非常に少なく、しかも、第2波は第1波と比べて死亡率が全く減少しなかった唯一の国です。現在新規死亡者もほぼゼロです。オーストラリアで、このまま新型コロナが収束してしまうのか、ヨーロッパや日本の様に第3波が侵入してくるのか興味深いところです。

7.まとめ

日本の第3波のピークアウトの兆候が見えたので、年末に向けての短期予報をまとめようと書き出したのですが、書き出した途端(12月9日午後7時)、本日の新規感染者が過去最高とのニュースが流れて、データを更新しました。連日の報道が不安を煽る一方なので、もう少し数字と傾向を冷静に見てほしいと思い、検証可能な値で短期予報を提示しました。