都ファ・罰則付き新型コロナ対策条例案の見送りに思うこと

東京都議会の都民ファーストの会は今月2日、開会中の第4回定例会に提出していた新型コロナウイルス対策で個人への罰則を盛り込んだ都条例改正案を取り下げることを発表しました。

医療関係者などから聞くと「検査を受けない」と答える人が相当数いました。東京都に聞くと「宿泊療養ホテルから自主退所する人も、週に4、5人いる」との報告を受けました。

事情は様々のようです。「コロナはただの風邪」という人もいれば、「陽性になると仕事と稼ぎを失って、生活できなくなる」という人もいました。

こうした方々に対し、安心して検査を受けていただける支援は当然必要で、12月8日の代表質問でも私たち都民ファーストの会は支援の必要性を質問しています。

一方で、私たちは「今現在の東京が戦(いくさ)の最中である」との認識に立っています。連日、連絡を取り合っている都立病院の医師は「11月の三連休後に、うちの病院のICUがいっぱいになりました。しばらく救急患者はとれません」と告げてきました。医療崩壊は目前に迫っています。いや、始まっているのかもしれません。こうなると、コロナに限らず、交通事故でも助かる命が助からなくなりますから、医療崩壊は、全ての都民にとって命の危機なのです。

感染症対策の基本は、検査と隔離です。医療崩壊しない範囲でいえば、自主的な検査や自主的な隔離で十分でしょうし、ルールとマナーに置換えれば、マナーで乗り越えられる方が、社会は円滑です。日本は他国に比べても圧倒的にマナーのいい国なので、できるだけルールを設けないことで済むならそうしたいと思います

しかし、東京都の調査によれば、「周囲に感染者がでても、検査を受けたくない」と回答した人が11.8%、「コロナかなと思っても受診しない」が11.9%にのぼることが判明しました。

何度も申し上げますが、それでも医療崩壊しないなら、マナーだけでやり過ごせるかもしれません。しかし、医療崩壊が起これば、コロナに限らず、多くの都民の命が危険にさらされるので、検査は、個人を守るだけではなく、社会全体を守るために必要なのだという認識がいるのではないでしょうか。

非常に残念だったのは、条例案を発表した翌日の朝刊各紙に「PCR検査拒否で罰金!」と報道されてしまったことです。保健所から濃厚接触者指定された人が、検査に行かなかったら全員、罰金になるかのような誤解を与える見出しの付け方に愕然としました。私たちが会見で丁寧に説明したように、条例案では、特に、検査拒否の悪質な人に限って、保健所が都に通報し、都が検査の「勧告」を出し、それでも応じていただけない人に「命令」を出し、命令にも従っていただけないケースに限って「過料」を課す、というものです。つまり、適用されるとしても、それは、ごく一部で、適用することに意図があるのではなく、こうした条例があることで、保健所の「指示」に従っていただきやすい仕組みを作りたかったのです。

併せて、「条例は差別を助長する」などの声をいただきました。この懸念は、正直、その通りだと思います。ルールを強化する条例には、必ずと言っていいほど、「作用」と「反作用」があります。平時においては、行政が時間をかけて、「反作用」を包含する政策をセットにして、条例をまとめますから、比較的批判が起きにくいのですが、「有事」の時には、矢継ぎ早に手を打っていく必要がありますので、全てをパッケージにした「条例」というよりも、個別に対応する条例や支援策を打って行かざるを得ません。

東京都議会議事堂(moronobu/iStock)

そこで、罰則条例の前に、私たちは、都に対しコロナ差別を生まないようにする条例を求め、すでに制定しています。それで全て解決するものではないと思っていますが。

今回、都議会でも見送りになった背景には、「社会がギスギスするので、ルールより、できるだけマナーを促すことで、乗り切ろう」という声が大きかったように思います。それで医療崩壊が起きないなら、それでいいと思います。感染症対策で、こういう罰則付きの条例などは、ない方がいいことだけは確かです。

しかし、医療崩壊という「都民の命の危機」に瀕しては、政治家は「作用」と「反作用」を比較考慮し、「作用」が上回ると確信できた際には、泥をかぶってでも、決断する必要があると、今でも信じています。こうした判断ができるのは、選挙という洗礼を受ける議員にしかできないことだと思うのですが、いかがでしょうか。