書評:山下裕貴著「オペレーション雷撃」

2020年12月15日 06:00

極めてノンフィクションに近いフィクション。もしくは、これから数年の間に起こりうると想定した政府の有事シナリオ。読後の率直な感想である。今日の日本にこんなことが起きるはずはない。自衛隊がここまで出来るはずがない。そう否定することは容易い。

しかし、現在日本を取り巻く安全保障環境を考えれば、所詮は小説の中の出来事、と一蹴も出来ない。自衛隊の中枢まで上り詰めた陸将が小説家に転身することは異例だが、であるが故に小説の中で繰り広げられる物語は独特の説得力をもつ。本書は陸上自衛隊第32代中部方面総監まで歴任した山下裕貴氏による、アクション映画顔負けの架空戦記小説だ。

本書の舞台は国内、東アジアに留まらず、遠くアフリカにまで及ぶ。また、登場人物は国内で活動する中国側の工作員から日本政府の密命を受け中国国内で活躍する日本人スパイ、自衛隊唯一の海外拠点ジブチと隣国エチオピアを駆け回る自衛隊員、CIAのアメリカ人スパイから元「イスラム国」の戦闘員など多彩だ。そして国家安全保障局の男性職員には、中国政府の意を受けた女性工作員が接近する…。

各登場人物の役職や立ち回り方が現実世界と極めて近似しており、話の展開に思わず息を呑む。実際に、評者に本書を薦めてくれたのは元自衛官の同僚である。これまで読んだ本をわざわざ勧めることのなかった同僚が、本書については何度も読むよう私に促した。

物語は中国による台湾への軍事侵攻の前段階としての、沖縄侵攻作戦だ。話の冒頭、事態の深刻さに「今年は、日本にとって“熱い夏”になるな」と田崎統幕長が呟く。現実世界では、米国の政権交代によってバイデン政権の外交政策に注目が集まる。

米国の対中姿勢軟化への懸念に加えて、今後の中台関係の行方が懸念される。北京政府による香港への締め付けの過酷さを見るにつけ、中台と米国による台湾海峡の緊張は日本にとっては決して他人事でない。退官した元陸将は、小説を通じて読者に警告を発しているのではないだろうか。

小林 武史 国会議員秘書
カイロ・アメリカン大学国際関係論修士過程修了。2005年法大卒(剛柔流空手道部第42代で、第10代菅義偉氏の後輩)。日本貿易振興機構(ジェトロ)を2013年退職。

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