連載㉓ 英国の変異種は脅威になるか:モンテカルロシミュレーションで検証

仁井田 浩二

Drazen_/iStock

イギリス国内で確認された新型コロナ変異種の感染拡大について、連日報告されているイギリスの陽性者数と死亡者数を用いて、この連載のいつもの手法で解析します。

12月19日、英国のジョンソン首相が、新型コロナの変異種の感染が広がっていることを発表しました。従来のウイルスに比較して、感染力が最大で7割大きく、子供も大人と同様に感染しやすい可能性があると伝えられています。これに対して、欧州各国はイギリスへの渡航禁止、イギリスではロンドンを含む地域で事実上のロックダウンの再導入を発表しています。

日本のテレビでは既に、この調子で指数関数的に感染者が増加すると何日目には何万人、とグラフを書く人まで現れて、かつての42万人が思い出されます。単に不安を煽るような報道は厳に慎むべきです。本稿では、イギリスの陽性者と死亡者の推移を解析し、他国のデータと比較します。まず現状を数値で見てみましょう。

1.イギリスの現状

本連載では、これまで日本を含め世界の10カ国を対象として解析を続けてきましたが、イギリスは含まれていませんでしたので、今回、3月に遡り陽性者と死亡者の変化を解析しました。図1の左が線形表示、右が対数数表示で、陽性者(赤)、死亡者(青)のデータと計算値、本連載で用いている実効感染者(紫)が示してあります。

赤の矢印で示している第3波の部分が、今回の変異種による感染拡大です。確かに第2波に比べて急激な上昇を示しています。死亡者の急増はまだ現れていません。計算でのピークアウト設定は、ピークアウトを引き起こすメカニズムがモデル自身にはありませんから、ひとつの仮定です。ただ、感染力が最大1.7倍ということで、ピーク高を第2波のピーク高の約1.7倍にしています。

変異種はゲノム解析で既存種から区別でき、12月9日時点で変異種の割合が全体の62%というデータが出ていますので、概ね合わせています。本連載の解析では、ピーク毎、死亡率の変化毎に「種」を設定してシミュレーションしていますので、変異種と既存種を区別して解析することは本解析の得意とするところです。

2.他国との比較、フランス、オーストラリア

イギリスの全体の様子は、ヨーロッパの他の諸国に類似しています。その中でも、前回示した第3波に不分離ツインピークのあるドイツ、スウェーデンより、分離型のピークを持つフランス、ベルギー、スペインにより似ています。但し、イギリスの第2波は幅が広く、ふたつのピークの重ね合わせで記述しています。

図2にフランスの結果を示します。全体の傾向がよく似ています。フランスでは、新しい波が立ち上がってきていますが、これがイギリスの変異種のものとは違う種とすると、両者の今後の違いは、比較検討の対象として興味深いところです。

イギリスの変異種は、すでに、オランダ、デンマーク等のヨーロッパ諸国、それとオーストラリアに感染拡散したことが確認されています。最近、これまでほぼ完璧に感染を抑え込んでいたオーストラリアに数十名規模のクラスターが発生しました(図3の赤い矢印の部分)。これがイギリスの変異種を起源とするものかどうか確認できませんでしたが、これからピークを形成するとして予測線を引いています。これも先行事例となるなら注視する必要があります。

3.不分離ツインピークのピークアウト、米国、日本

最後に、前回解析した不分離ツインピークを持つ日本、ドイツ、スウェーデン、米国についてです。この4カ国はツインピークの形状、時期に類似性があり、どの国にもピークアウトのはっきりした兆候が見えず、同じフェーズで進んでいるようでしたが、米国の昨日(12月20日)のデータに少しその兆候が見えましたので図4に示します。ピークアウトの日の設定を3日早めて新たな予測線を書いています。破線が前回の予測線です。

米国のピークアウトが実現すると、ひとつの先行事例になるので、日本、ドイツ、スウェーデンのピークアウトも期待できます。ということで、最後の図5は日本です。米国の推移を参考にすると、今週(クリスマスの週)は再度上昇し、年末の12月最終週に下降フェーズに入るという(希望的)予測です。