小池百合子都知事が21日に行った臨時会見で「小中学生に感謝の手紙を送ることを呼び掛けたい。この時期ですから年賀状ですね」と発表した仰天プラン。「医療崩壊寸前」として限界を訴える医療現場も、コロナ対応に知恵を絞り続けてきた学校現場も、誰も得しない迷惑プランを語る都知事のしたり顔に、膝から崩れ落ちそうになった。
案の定、ツイッター上は即座に大ブーイングの嵐。
「今本気で現場に必要なのはヤラセで書かせた手紙なんかじゃなく、金か人材か物資」
「子供の内心の自由を奪って、医療従事者にやらせの手紙を押し付けるな」
「小中学生にも郵便局員にも医療従事者にも負担かけるな!」
「コロナ禍で疲弊している教員も追い詰めます」
「令和の千人針」「学徒勤労動員」など戦時下を思わせるような単語まで飛び出して、子どもたちを半ば強制的にかりだすことへの心理的反発の大きさを物語っていた。
ここまでの言われようでは、さすがの小池都知事も今回ばかりは無意味なパフォーマンスを見送るだろうと思い、忘れかけていたところ…。小学高学年の我が子が終業式の25日、学校で「医療従事者への感謝の手紙」を書いてきたと言うので、のけぞった。
会見の翌22日には、都内自治体の各教育委員会に「依頼」という名の通達を出していたようだ。(上田令子都議のツイートより)
東京都教育庁からの「依頼」とあれば、都内の各教育委員会にとってみれば、「命令」に等しいものであろう。ただでさえ学期末の事務手続きに多忙を極めているだろう学校現場の冬休み入り3日前のこの依頼は、無茶振り以外の何者でもない。
我が子の話を聞いてみると、22日から25日の終業式までの実質2日間で、「医療従事者の皆様へ」と印刷された学校名入りのメッセージカードを、先生方が全校児童分用意してくれたらしい。ただでさえ「過労死レベル」とも言われる残業時間が、さらに延びるはめになってしまったのではないか。
真面目な先生方のこと、子どもたちに医療従事者の皆さんのご苦労やご健闘ぶりを伝えた上で、感謝の気持ちを持つこと、そしてそれを言葉で伝えることの大切さまで噛み砕いて説明してくれたようで、上からの無茶振りになんとか教育的意義を見出そうと奮闘してくれた跡も伺えた。先生方のご献身ぶりには、頭が下がるばかりだ。子どもたちも、それぞれ思いを込めて手紙をしたためたに違いない。
一方で、保護者として、都民として、こんなことを、春先からコロナに翻弄され続けてきた子どもたちに強いる東京都に対して、釈然としない思いが残る。小池都知事への怒りと言ってしまった方が良いかもしれない。政界での処世術やパフォーマンスには長けているのかもしれないが、他者や都民に寄り添う姿勢が見えてこないのだ。
医療体制の整備や雇用、自殺者の問題など根本的な対策から目を背け、会見でフリップを掲げて警戒を呼びかけるだけでは、何も解決しない。挙げ句、子どもたちに手紙を書いて医療従事者への感謝の気持ちを示せとは、関係各所で日夜働く人々の現実や子どもたちの気持ちをどう考えてのパフォーマンスなのだろうか、理解に苦しむ。
25日の年内最後の定例会見で今年を振り返り、2020年を東京にとって「本当にひどい年だった」と述べた小池知事。その言葉さえもどこか他人事で、空虚に響く。