韓国の司法リスク:日本政府に賠償命令を出した慰安婦判決の今後の影響

松川 るい

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韓国のソウル地裁が日本政府に対し賠償を求める慰安婦の裁判について、賠償命令の判決を出した。いろいろな意味で本当にあり得ない判決だ。既に旧朝鮮出身労働者問題で地に落ちていた日韓関係だが、今回の日本政府に直接手を出そうという判決がそのまま放置されれば、日韓関係は別次元での悪影響に陥ることは必至である。

韓国の一地裁が常識はずれな判決を出したところだが、韓国政府がどう行動するかが1番の問題だ。仮にも韓国政府がこの状況を放置することは、韓国政府が日本との関係をどうなってもいいと思っていることを意味すると解されるからだ。「司法の判断を尊重する」とはどういう意味なのだろうか。これを放置することの帰結を理解しているのだろうか。

まず、この判決が何らの手当もされないまま放置されるとどうなるか。判決がそのまま執行されれば、大使館や領事館は外交関係ウィーン条約上の不可侵権があるのでおそらくそこに執行が及ぶことはないと思うが(あったとしたら国交断交レベルといえる)、大使公邸や文化院などに手を出そうとする可能性は排除できない。

そのような状況を放置して、「韓日関係の未来志向の発展のために今後も努力していくでしょう」(文在寅大統領新年の辞)など空疎なものとなってしまうだろう。努力するなら「今」すぐして頂きたい。三権分立というなら、司法府に行政府の立場を分からせるべきだ。放置は、一地方裁判所に韓国外交を任せるに等しい愚挙だ。

主権国家は他国の主権には服さない。これが国際法の大原則で、これを元に、主権国家は他国の国内裁判管轄権から免除されるのが確立した国際法で、主権免除と呼ばれる。今回のソウル地裁の判決は、この国際法の大原則を外れるものであることがまず問題だ。このことはナチス下の強制労働をうったえたイタリアのケースでもその訴えはICJにおいて却下されている。

ソウル地裁は、この点は認識した上で、慰安婦は奴隷制度と同じような強行法規に当たるので、主権免除という国際法の原則を逸脱して良いのだとしているが、まず、慰安婦は奴隷制などではない。日本政府は、慰安婦となることを強制していない。今や、韓国の喧伝のせいで、どうやら韓国国民は、あたかも日本軍がいやがる少女を無理やりトラックに積めこんで拉致していったと誤解しているのかもしれないが(判決においても「誘拐、拉致」といった内容が記載されているようで事実誤認も甚だしい)、これは事実に反する。

実態は、貧しい家庭の女性たちがその貧困から逃れるため自ら、または、両親に売られてお金を稼ぐために慰安婦となった例が大半だ。慰安婦の半分以上は日本人であり、これは共通した背景事情だ。むろん、仲介した朝鮮人の仲介業者が甘言を弄してだまして連れていかれた例はあっただろう。また、日本軍が慰安婦を新聞広告など含め募集をしていたことも事実であり、日本軍が募集しなければ慰安婦という形では存在しなかったではないかと言われればそれはそのとおりだ。

日本軍は、慰安婦の移送の便宜をはかることに関わるなどしたわけで、現在のモラルから行って軍がこうしたことに関与することは不適切であるという現代のハイモラルグラウンドな観点から、日本政府は謝罪もし、アジア女性基金、2015年の慰安婦合意など様々な可能な限りの措置を行ってきた。アジア女性基金では韓国人慰安婦については1人550万円の償い金、慰安婦合意では一人1000万円を支払っている。実際、慰安婦合意においては47人の元慰安婦のうち大半にあたる35人が既にを受領している。日本は既にできる限りの救済を行い、受け取られているのだ。挺対協が邪魔しなければ本来はもっと多くの女性達が受け取ることができたはずである。

韓国大統領官邸(PictureLake/iStock)

今回の判決は、こうした日本政府がこれまで行ってきた努力と既に行われた救済を無視するものだ。特に2015年の慰安婦合意については、韓国政府自身が今回述べているように「日韓政府の公式な合意であり、現在も有効」なのだ。したがって、今回の判決は韓国政府自身の努力すら無視するものだ。自国政府の立場すら無視して、一韓国の地方裁判所が国家間の関係をここまで貶めることが許されるのか。

そもそも、慰安婦問題を含めすべての請求権については1965年の日韓請求権協定で解決済である。日本政府は当時の韓国の国家予算の1.6倍にあたる5億ドルの支払いを行うだけでなく、米国政府資産によれば53億ドルという当時の韓国の国家予算の18倍に当たる官民の在外資産を放棄して朝鮮半島においてきた。韓国分だけで換算しても、当時の韓国の国家予算の10倍には当たる価値である。

韓国の司法が日韓関係に及ぼした悪影響は図りしれない。もともと、こうなった導火線は、2012年の慰安婦の大法院判決が根源である。その後の2018年の旧朝鮮半島出身労働者問題判決が明示的に交渉され解決されていると韓国政府自身が認定していた請求権の問題を既存の国際法上ありえない珍奇な理屈を作り出して認めた。今回の判決もその延長戦上にあるものだ。

今回の判決は日本政府を相手にするものであり、今までの判決以上に桁違いに深刻である。この判決を出した判事はもしかして、日韓関係を基礎づける65年体制を壊したいという野望を持つグループの人なのか、またはどこぞの国と関係があるのかと訝しんで韓国の友人に聞いてみたが、そういうわけでもないらしい。

しかし、繰り返しになるが、一番の今後の問題は、この不当判決を受けて、韓国政府がどう行動するかである。少なくとも、「主家免除、外交不可侵の観点から、日本政府財産については執行不可能というのが政府の見解である」ぐらいのことは宣言し、何等かの方法で本件判決の「無効化」を実現させなければならない。

そもそも、本来は、こうした意見書を裁判中に提出しておき、このような常識はずれの判決が出ないように働きかけるのが韓国政府の仕事だったはずだ。

韓国は、相手が日本でなく、米国や中国でも同じことをするのか。するわけがない。日本大使館前や領事館前では平気で公道に慰安婦像を建設許可するが、中国大使館前に北朝鮮の脱北者の像を設置するという計画を知った際に、即刻中止させた。

安倍外交の最大の成果の一つは日韓関係のリセットである。日韓関係は地理が変わらない以上重要な隣国関係にあり、安定的な関係を維持し続けることは日本の国益にとって重要なことである。これは、本来、韓国にとっても同じはずである。

今回、日本政府資産にまで手を出すことになれば、日本は対抗措置を取らざるを得ない。そのようなことになれば、今後の日韓関係はもう別次元の関係に変質してしまうだろう。それは、日韓双方にとって望むところではないはずである。まず、日本としては、躊躇なくあらゆる手段により、韓国政府に対し、今回の判決自体の問題、判決を放置することの問題の重大さについて知らしめ、是正を実現させるべきである。


編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏(自由民主党、大阪選挙区)の公式ブログ 2021年1月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。