失敗してよかった“世田谷モデル”:保健所はすでに崩壊寸前

稗島 進

保健所が危機的状況に陥っている。世田谷区のコロナ陽性者は累計6000人を超えた(8日現在)。年末年始の感染者急増によって、入院先の手配など一連のコロナ対応に明け暮れ、庁内の他部署から応援要員が充てられたが、それでも「到底、間に合うものではなかった」と関係者は私に漏らした。

私は昨年7月末から保坂区長がぶち上げた“世田谷モデル”に、一貫して反対してきた。保健所機能の麻痺や検査の魔女狩り的要素を危惧し、その都度、問題点を細かく指摘してきたが、残念ながら悉く現実のものとなってしまった。

万一、区長の「いつでも誰でも何度でも」という、「トンデモ発言」に近い形で実施されていたら、保健所はもちろん、区役所はコロナ対応だけで崩壊していたに違いない。原型を留めないほどに変更に変更を加えられた、大幅縮小かつ対象者3割しか希望しないという、不徹底検査の現行モデルだからこそ、まだこの状況でなんとか踏みとどまっている、とも言える。つまり、“世田谷モデル”は失敗して正解だったのである。

相変わらず、区長はプール方式にこだわり続けているが、課題はすでにそこにはない。精度の善し悪しはあるが、PCR検査は希望すれば巷で手軽にスピーディーに受けられるようになった。何度も繰り返すが、基本中の基本は、有症状者に対する保健所や医師会を通した検査の強化であることは、論を俟たない。無症状者に行う検査は、範囲を限定し関係者全員に強制的に実施しなければ効果的でないことも、すでに指摘した(コチラ)。では何が課題かといえば、原点に戻るが、実は、個別具体的な感染予防方法の周知ではないだろうか。

多くの人はマスクを着用し、手洗い消毒もしっかりしているし、予防方法については方々で口やかましく言われているので問題ないと思われがちだが、その割には感染拡大が止まない。変異ウイルスによる可能性も指摘されているが、そうだとしても、さらに予防に気をつけることはすれ、やめることはないだろう。

政府の緊急事態宣言の再発令は、飲食業にターゲットを絞ったものになったが、個々の店舗のうちどれだけ有効な予防策をとっているか判然としないのが実際ではないか。入口での手指の消毒、テーブルを衛生的に保つことなどは、どこでも徹底されているように見えるが、パーテーションの高さや位置など設置方法が適切かどうかまで、行政はチェックできていない。トップの田村厚労相からして、記者会見の仕方に疑問を抱く人も少なくない。

一律に「飲食店に行くな」と号令を発するよりも、安全に飲食できるようにする知恵を絞ることも必要なはずである。話を“世田谷モデル”に戻すと、希望者はたった3割しかいないのだが、希望してくる施設というのは、「うちは徹底的に予防策を講じているから、感染者はいない」と自信があるからである。一人も検査に引っかからなかったら、区の検査をパスしたというお墨付きが得られ、利用者にも宣伝できるという“使い方”をしているのが実情である。しかし、予想に反して陽性者が出ることがあり、事業者は「あんなに予防しているのに理解できない」と戸惑うことになる。

いかに予防策が主観的なものになりがちか、ということがわかったことは、数少ない“世田谷モデル”の成果の一つと言えるかもしれない。今後、飲食店のパーテーションの効果的な使用例や介護事業所などでの有効策の例示など、具体的な指導を行うよう区に要望していきたい。