安倍前首相「説明」に残る“重大な疑問”、限りなく「意図的虚偽答弁」に近い

2020年8月、会見する安倍首相 首相官邸サイトより

コロナに明け、コロナに暮れたように思える昨年は、一方で、首相の国会での「虚偽答弁」に始まり、その「虚偽答弁」についての「国会説明」で終わった年でもあった。

新型コロナ感染対策や東京五輪開催をめぐって、多くの失敗を繰り返してきた安倍政権が終焉、それを受けての自民党総裁選では、安倍政権に一貫して批判的だった石破茂元幹事長「排除」が至上命題とされ、菅氏の圧勝に終わった。菅政権に移行した後も、安倍政権時代の説明責任軽視の姿勢は基本的に変わるところはなく、菅首相も、就任直後から、「説明責任」を果たしていない(果たす「言語能力」もない)ことに国民は失望し、内閣支持率も急落している。

安倍内閣から菅内閣に引き継がれた「説明責任無視」の姿勢は、一極集中の政治権力に擦り寄る政治家の集りの自民党の「宿痾」であり、その根本にあるのが、「桜を見る会問題」をめぐる安倍前首相の「虚偽答弁問題」だと言える。

一昨年末から昨年の年初にかけて、マスコミや野党から「桜を見る会問題」での追及を受け、安倍首相が行った説明について、私は、公選法違反・政治資金規正法違反の疑惑との関連で「完全に詰んでいる」と指摘してきた(【「桜を見る会」前夜祭、安倍首相説明の「詰み」を盤面解説】)。

議院内閣制は、総理大臣を中心とする内閣が、国会で真摯に誠実に答弁することが前提とされている。その総理大臣の答弁が、重要な事項について「説明不能」の状況に陥ったのであれば、職を辞することになるのが当然だ。ところが、安倍氏は、「説明にならない説明」を繰り返したため、「全国の法律家による告発」という形で公選法違反等の犯罪の嫌疑が現実化した。

しかし、安倍首相在任中に、検察捜査の動きが表面化することはなく、当時、「官邸の守護神」とも言われた黒川弘務東京高検検事長の存在との関係も取り沙汰された。そして、安倍首相が国会で「桜を見る会問題」で追及を受けている最中の1月末、検察庁法に違反する閣議決定によって黒川検事長の定年が延長され、さらに、それを正当化するためとしか思えない検察庁法改正法案が国会に提出されたことに対して、ネット世論を中心とする国民の猛烈な批判が沸き起こり、法改正は断念に追い込まれた。

もともと安倍氏の説明は、検察捜査によらずとも、国会の国政調査権でホテルニューオータニから明細書や領収書を提出させれば容易に判明していたはずの明白な「虚偽」だった。ところが、上記の経過で、検察は安倍首相辞任後になってようやく捜査に動き出し、「虚偽答弁」が明らかになるのに1年近くを要した。

その「虚偽答弁」について、昨年末、安倍氏は「国会での説明」を行ったが、全く説明にはなっておらず、多くの疑問が残ったままだ。

安倍氏の「説明」について、それが意味するものと、なお残る疑問点、問題点を、改めて整理しておこう。

第一に、「虚偽答弁」について、そのように答弁した理由について、安倍氏が説明未了の重要な点がある。それは、繰り返し指摘してきた「ホテルとの契約主体」の問題だ。

安倍氏は、国会答弁で、「安倍晋三後援会は夕食会を主催したが、契約主体は個々の参加者だった」と説明していた。それについて、私は、当時から、「『桜を見る会』前夜祭に関して、安倍首相が『説明不能』の状態に陥ったということである。」と指摘していた【前記記事】。

今回、総理主催「桜を見る会問題」追及本部の今年1月5日付けの質問状に対して、安倍事務所は、上記の契約主体に関する答弁を「事実と異なる答弁」の一つとして回答した。

そこで問題になるのは「契約主体が個々の参加者だなどという荒唐無稽な説明を、誰が考えたのか」という点である。

その点については、安倍氏は、「秘書から事実に反する説明を受けた」とは言っていない。「契約主体は個々の参加者」という説明は、安倍氏自身が、公選法違反・政治資金規正法違反を免れる「言い訳」として苦し紛れに作り出したものなのかもしれない。

ホテルとの契約主体についての虚偽答弁について、安倍氏に十分な説明を求めれば、意図的な虚偽答弁が否定できなくなるはずだ。

第二に、安倍氏の説明には致命的な弱点(もう一歩追及されると意図的なウソだったことがばれる点)があるということだ。

前夜祭の費用の補填は、秘書が、自分が預けていた個人の金から無断で拠出していたと説明し、その費用補填が公選法による「寄附の禁止」(199条の2第1項)に該当しないのかという点について、安倍氏は、補填分は「会場費」の実費を負担したもので、同項が「寄附」から除外する「政治教育集会に関する必要やむを得ない実費の補償」に該当するので、違法ではないと説明している。

しかし、この説明には重大な疑問がある。

一つは、そもそも、「桜を見る会」前夜祭が、「政治教育集会に関する」ものと言えるのかという点だ。単なる地元有権者との懇親の場であり「政治教育集会」とは程遠いものであろう。

もう一つは、この費用補填が「必要やむを得ない実費の補償」と言えるのかという点だ。安倍氏は、飲食代金の5000円が参加者個人の負担で、安倍氏側は「会場費」だけを補填したかのように説明しているが、果たしてそうなのかどうかは、ホテル側の明細書等の資料を確認する必要がある。通常は、ホテル側が、飲食費・会場代のほか、様々な費用を積み上げて総額を計算し、その総額のうち、参加者の会費としての負担分と、主催者側の補填分とを振り分けるということで、補填する金額が決まるはずだ。

そうであれば、補填分は、飲食代・会場費を含めた「前夜祭費用総額の一部」を負担したということであり、「必要やむを得ない実費の補償」には当たらないということになる。

安倍氏が、国会での説明で、ホテルの明細書が存在していることを認めながら、「事務所にはない、ホテルは『営業の秘密』を理由に提出を拒んでいる」という理由で、明細書の提示を頑なに拒んでいるのは、この点について真実を隠そうとしていることが疑われる。

つまり、安倍氏は、現在も、さらにウソを重ねている疑いが十分にあるのである。

第三に、最も重要な点は、安倍氏が国会で説明したとおりであるとしても、「意図的な虚偽答弁」に限りなく近い、ということである。

安倍氏にとって、前夜祭の費用の補填を繰り返し否定していたのに、実際には多額の補填が行われていたことについて、「費用補填を認識していなかった」と説明し、そのように認識していた理由について、野党の追及が始まった後に、自分の執務室から東京の安倍事務所の責任者に電話をかけて「5000円の会費で全てまかなっていたんだね」と確認し、その後「会場代も含めてだね」と確認した、と説明した。

しかし、前夜祭の問題について、国会での追及が始まった後に、安倍氏から、電話でそのように言われて、「同意」を求められた秘書が、「そうではありません。5000円以外に別に支払をしています。」と答えることなどできようはずもない。安倍氏の聞き方は、どのような費用がかかったのか、収支は発生したのかなどについて「事実を聞き出す」ものではない。「すべての費用は参加者の自己負担」と決めつけ、秘書側が、それに反する事実を説明できないよう抑え込んでいるだけだ。安倍氏の説明のとおりだとしても、そもそも「真実を答弁しようとする姿勢」がなく、意図的な「虚偽答弁」に限りなく近いものだ。

このように、安倍前首相の説明には多くの疑問があり、しかも、説明のとおりだとしても「意図的な虚偽答弁」に限りなく近い。国会でのこの問題を徹底追及すべきだ。

「ウソの構図」が放置されたまま、今後も、安倍氏やその支配下、影響下にある政治家が日本の政治を動かすことは決して許してはならない。政治に最低限の信頼を取り戻すためには、引き続き、安倍氏側や関係先に説明と資料提出を求め、ウソの中身をすべて明らかにするとともに、首相の「虚偽答弁」の動機と経過を詳細に明らかにしていくことが不可欠だ。

そして、忘れてはならないのは、昨年末に、凡そ説明にならない説明を終えた後、安倍氏が、「次の選挙で信を問いたい」などと抜け抜けと語ったことだ。

安倍氏が言っていることは、要するに、「『説明責任』など糞くらえだ。地元の有権者は、そんなこととは関係なく、無条件に自分を支持してくれる。だから、9回の選挙はすべて圧勝してきた」ということなのだ。完全に、地元の有権者をバカにしている。

安倍氏が、首相の虚偽答弁という「憲政史上の汚点」を残し、納得できる説明も行わないまま、次の選挙で再び「圧勝」すれば、「虚偽答弁」の背景にある、日本の政治を支配してきた「ウソの構図」が放置されたまま、今後も、「説明責任を果たさないウソの政治」が横行することになる。

今年の秋までに行われる衆議院議員選挙で、安倍氏の選挙区である山口4区(下関市・長門市)の有権者に、首相の「虚偽答弁」について、その中身の詳細と、その問題点、疑問点が理解されるようにすること、その有権者一人ひとりが問題を正しく理解した上で、選挙での選択が行われるよう、下関市・長門市の有権者の人達に、国民全体の声が届くようにすることが、今年の重要な課題というべきだ。