バイデン氏の追加経済対策、米国への資金還流につながる?

2021年01月16日 14:00

バイデン次期大統領は14日夜、1.9兆ドル規模の追加経済対策を発表しました。

米12月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が8ヵ月ぶりの減少を確認した8日、バイデン氏が「数兆ドル規模」の新たな追加経済対策に言及した通り、個人給付2,000ドルの引き上げ(2020年12月分の600ドルに1,400ドル上乗せ)失業保険支給額の上乗せ家賃補助ワクチン配布州政府・地方政府支援などを掲げます。

チャート:追加経済対策の主なポイントは、以下の通り。

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(作成:My Big Apple NY)

追加経済対策は弱者救済を全面に打ち出し、バイデン氏が公約に打ち出していた平均時給15ドルへの引き上げを確認できます。また、個人給付についてはこれまで対象外だった不法移民が含まれるようになりました。一方で、学生ローンの債務減免は盛り込まれませんでした。

新たな追加経済対策成立をめぐる問題は、財源です。既に米10年債利回りは米国債大増発を懸念し、再び上昇しつつあります。

また、ジョージア州決戦投票を制し上下院でトリプルブルーを達成したとはいえ、上院が50対50の状況ですよね。ということは、新たな追加経済対策の成立にあたってフィリバスター(議事妨害)の打ち切りに60票を得るには、共和党の協力が必要になります。決して低いハードルとは言えず、追加経済対策が満額で成立する可能性は決して高くはなく、交渉過程で1.9兆ドル案から縮小されてもおかしくありません

チャート:上下院議席数

上院

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下院
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(作成:My Big Apple NY)

何より、追加経済対策の審議がトランプ大統領の弾劾裁判開始と重なる点に留意したい。バイデン氏の大統領就任は1月20日正午であって、それまではトランプ政権が存続し、上院での与党は共和党です。共和党のマコーネル院内総務は民主党のシューマー院内総務の提案に現時点で耳を貸さず、19日まで休会となっている上院を再開する意思を表明していません。つまり、弾劾手続きはもちろん、追加経済対策の審議が始まるのは、1月20日以降となるわけです。

そこへきて、弾劾裁判が開始すれば3つの問題が生じます。

1つは、民主党と共和党主流派との対立激化です。米議事堂襲撃事件は1人の警官を含む5人が死亡する痛ましい悲劇を生み出しました。さらに、米国の歴史に大きな汚点を残し、筆者も心を痛めております。しかし、共和党はトランプ弾劾を1丁目1番地に掲げる民主党に対し、態度を硬化させかねません。ユーガブの世論調査結果によれば、米議事堂襲撃事件を扇動したとしてトランプ氏の「即時辞任」を求める声は50%でしたが、「即時辞任が適切ではない」との回答は42%に及び、「分からない」と合わせると49%と拮抗しています。共和党主流派は、次々に企業が献金見直しで動いているとはいえ、こうした声を無視できないでしょう。

チャート:トランプ大統領の即時辞任についての世論調査結果

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(作成:My Big Apple NY)

2つ目は、追加経済対策成立への影響です。1998年のクリントン大統領をめぐる弾劾裁判は判決が出るまでに約5週間トランプ氏のウクライナ問題をめぐる弾劾裁判は約3週間を要しました。新規感染者と死者の急増に加え、規制再導入で職を失う人が溢れるなか、追加経済対策成立が遅れかねません。

最後は、バイデン氏が指名した閣僚候補の就任に遅れが生じることです。ただでさえ閣僚候補の公聴会予定は財務長官に指名されたジャネット・イエレン氏、そして国防長官に指名されたロイド・オースティン氏の2人のみ。これまでは両党の対立より国益を重んじ就任式前に指名承認を経て何人かが着任していたものですが、バイデン氏の場合は就任式での閣僚が実質ゼロという異例の事態を迎える見通しです。ちなみに、過去45年間で指名された国防長官が就任式までに着任していなかったケースは1度、1989年のブッシュ大統領の時だけでした。

以上3つの問題を意識したのか、他ならぬバイデン氏自身は民主党に対し、コロナ対策と閣僚指名承認が優先順位と示唆する声明をリリースしていました。

一連の問題が意識される一方で、ウォール街は悲観していません。JPモルガン・チェースは、足元でアジアから米国への資金流入が18週以上続くように、投資マネーの米国回帰が進むと予想。追加経済対策が呼び水になるといいます。

その他、個人給付額2,000ドルへの引き上げが、個人投資家の投資マネーを増やし、米株相を下支えするとの指摘も。日本人からすると楽観的に傾いているようにみえますが、これが米国人のアニマル・スピリットなのかもしれません。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年1月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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