医療提供体制の逼迫が危機的な状況に陥っており、病床確保が喫緊の課題です。しかし、日本の病床数は諸外国と比較しても決して少ないわけではありません。人口1000人当たり13.0という数字はOECDの中でも最多です。それなのに医療崩壊とも言える状況が生じているのは、日本には民間病院が多く、彼らが病床提供に協力しないのが一因ではないかと言われています。
しかし、国や知事がお願いして民間病院が協力を拒否しているというのは本当なのでしょうか。
現行の感染症法16条の2には、厚労大臣や都道府県知事が「感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するために必要な措置を定め、医師その他の医療関係者に対し、当該措置の実施に対する必要な協力を求めることができる」と規定されています。また、新型インフル特措法31条にも「都道府県知事は、医師、看護師その他の政令で定める医療関係者に対し、当該患者等に対する医療を行うよう要請することができる。」との規定があります。
では、これらの法律に基づいて、大臣や知事は民間病院に協力を要請したことがあるのでしょうか。厚労省に直接確認してみました。
すると、実は感染症法や特措法に基づいて民間病院に病床提供の要請が行われたことはこれまでにない、ということがわかりました。というのも、国は特措法31条に基づく要請を行うことができる状況についての指針を示しており、その中で「実際の要請等は慎重に行うべきである」としているのです。
厚労省は、来週から始まる通常国会で、感染症法16条の2に基づく「要請」を「勧告」とした上で、正当な理由がなく勧告に従わない場合には「その旨を公表できる」という法改正案を提出し、民間病院の病床確保を進めたいとの意向です。
しかし、既に法律にある「要請」さえしていない中で、さらに強制力を高める法改正だけで、民間病院のコロナ患者受け入れが本当に進むのでしょうか。
私は、以下の2つの視点が欠けていると考えます
①病院の機能に応じた役割分担と相互連携の総合調整
②実費弁償だけでなく減収補填までカバーする財政支援
まず①についてですが、医療提供体制は単に「病床」の問題だけでなく、専門医や看護師、臨床検査技師といったマンパワーの問題、人工呼吸器やECMOのような機器(ハード)の問題をセットで解決しなければなりません。例えば、専門医や必要な機器のない病院のベッドが空いていてもコロナ重症患者を受け入れることができないからです。
逆に、重症者を受け入れることのできない病院でも軽症者や一般患者の受け入れは可能かもしれません。そもそも日本にはリハビリ病院や療養病院がたくさんありますが、日頃から急性期の医療は行っていないので、コロナ患者を受け入れることはマンパワーの面でもハードの面でも難しいのが実態です。
ソフトとハードの機能に応じた病院間の役割分担を行った上で、これらの機能が未整備な病院は中等症や軽症患者を治療する役割を担ってもらい、重症患者を受け入れ可能な医療機関と相互に連携する仕組みの構築が急務だと言えます。
要は、機能に応じた病院の「役割分担」と「連携」の総合調整が重要だということです。
そして、これまで国も都道府県もその総合調整において十分な役割を果たすことができていなかったのではないでしょうか。実際、医療機関同士が電話やLINEで連絡を取り合って、患者が受け入れ可能かどうかをなんとか調整しているという話も聞きます。
あたかも日本全体で病床が不足しているかのような虚構の危機を煽り、強制力を高める法改正を急ぐのではなく、ベッド(病床)とヒト(専門医等のマンパワー)とモノ(ECMO等のハード)のミスマッチの解消こそが問題解決の鍵ではないでしょうか。
その意味では、医療資源の最適配分のための総合調整機能の強化と、国や都道府県知事の権限と責任を明確にする法改正こそ急ぐべきです。
次に②についてですが、もう一つ重要なことがおカネの問題です。
コロナ患者受け入れには当然、おカネがかかります。この財政的な支援について、菅政権は、コロナ受け入れ病院に対して重症者一床あたり1950万円の支援金を出すので十分だと説明し、メディアもそれをそのまま伝えています(厚労省資料)。しかし、現実は少し違います。
この支援金はコロナ患者対応にかかる人件費や消毒・清掃費用には使えても、コロナ患者を受け入れることで他の一般患者が減ることによる減収補填や赤字補填には使えません。つまり、いくら金額を積んだり、法的な強制力を高めても、支援金の使途を柔軟化しないと、民間病院としては経営が成り立たないので受け入れを躊躇するでしょう。
法律上も、例えば、特措法31条の要請に基づいて民間病院にコロナ患者を受け入れてもらった場合には、国及び都道府県は、同法62条で「政令に定める基準に従い、その『実費』を弁償しなければならない」とされていますが、この場合、あくまで支弁すべきは「実費」であって、コロナ患者を受け入れなければ得られたであろう逸失利益の補填はできないと解されています。現に、特措法施行令19条には、公務員医師の「給与を考慮して定める」と規定されているなど、基本的に手当や旅費等の実費弁償の域を出ていません。
病床不足(とりわけ重症者病床)を解消するためにおカネを出すのなら、コロナ患者受け入れによる実費弁償だけでなく、減収補填までカバーすることを法的に担保することが必要です。
医療崩壊による死者の増加など、緊張の高まる状況下では、とかく誰かを悪者にして叩く傾向に走りがちになりますが、客観的事実とデータに基づいて、真のボトルネックを特定し、適切な対策を講じなくてはなりません。法改正についても「協力しない民間病院がけしからん」という雰囲気に任せて改正するのではなく、問題解決につながる改正にすべきです。
コロナ患者向けの病床を確保するために法改正をするのであれば、「要請」を「勧告」に引き上げて民間病院に対する強制力を高めるだけでなく、
①国や都道府県知事による医療資源の最適配分のための総合調整機能の強化(権限と責任の明記)
② コロナ患者の受け入れに伴う財政支援の拡充(減収補填など使途の柔軟化)
の2つこそ、まず法改正で実現すべきです。
来週18日から始まる通常国会では、こうした論点を重点的に訴え、実現に向けて国民民主党を挙げて力を注ぎます。国民の生命が懸かっているので、とにかく急いで取り組みます。
【参考】
編集部より:この記事は、国民民主党代表、衆議院議員・玉木雄一郎氏(香川2区)の公式ブログ 2021年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください