今月15日、政府は一般企業による農地取得の全国解禁を見送り、国家戦略特区の兵庫県養父市に限る特例を2年間延長することを決めました。養父市の特例が成果を上げているにも関わらず、全国レベルでの規制緩和に待ったがかかったというわけです。政府の規制緩和姿勢に、失望の声も上がっています。
農地をめぐる政策は今後どうあるべきでしょうか。特区での取組事例をもとに、地域の特性に応じた農地政策の在り方について提言します。
1.兵庫県養父市での取組事例
養父市は、広瀬栄市長のリーダーシップのもと2014年に国家戦略特区に指定されて以降、様々な規制改革に取り組んできました。特に、農地に関わる主要な改革は以下の2点です。
第1に、農地の売買や賃貸に関する許認可権限を農業委員会から市に委譲した点です。これにより、年間の許可件数が増加したことに加え、事務処理に要する期間が大幅に短縮され、農地の流動化が促進されました。
第2に、一般企業に農地の所有を認めた点です。これにより、多数の企業が新たに農業参入し、雇用や生産額が増える等の経済効果をもたらす結果となりました。
広瀬市長がこうした規制改革に取り組む理由として、深刻化する耕作放棄地の問題があります。我が国の耕作放棄地面積は42.3ha(2015年)で、農地全体の9.4%を占めます。これに対し、養父市の耕作放棄地面積の割合は18.4%(2015年)にもおよび、全国的に見ても特に深刻な状況です。農地の流動化や企業の参入によって農業の多様な担い手を生み出し、耕作放棄地の解消に繋げることが広瀬市長の大きな狙いの1つでした。
2.企業の農業参入によって耕作放棄が進むのか
一方で、農地をめぐる規制改革に対し「一般企業は採算が合わないと撤退するため、耕作放棄が進む」と懸念する声もあります。たしかに、企業は営利目的である以上、事業が軌道に乗らなければやむを得ず撤退する可能性も否定はできません。しかし、前述の通り、耕作放棄の問題は企業の農業参入によって固有に発生する問題ではなく、既に各地で起こっている問題なのです。このまま何もしなければ、耕作放棄地は増え続けるわけですから、それであれば農業の新たな担い手として一般企業に耕作を託すことも妥当な選択と言えるのではないでしょうか。
また、「企業に対して農地の『所有』を認める必要はなく、現行通り『リース方式』で十分ではないか」との声もあります。たしかに、2009年の農地法改正によってリース方式による農業参入が自由化されて以降、一般企業による農業への参入は増加しています。しかし、農作物の収量・品質向上のためには農地の基盤整備による排水改良や土壌改良など、大きな投資が必要となる時もあります。借り物の農地に対して、果たしてどこまでそのような本気の投資ができるでしょうか。むしろ、『所有』が認められてこそ、企業も愛着を持って自社の農地に投資し、地域に根を張った長期的な農業経営が実現できるのではないでしょうか。
3.地域の特性に応じた農地政策を
養父市での特区の取組みは、成功事例と言えるかもしれません。しかし、特区で成功したからと言って、全国一律に規制改革を展開することが本当に適切でしょうか。例えば、私の地元北海道では、養父市とは対照的に耕作放棄地面積の割合は僅か1.8%(2015年)に留まります。経営規模拡大に意欲的な若手農家が多いため、少し離れた農地であっても離農によって空きが出ればすぐに引き受けるという状況です。こうした地域では、意欲ある地元の若手農家を押しのけてまで一般企業や巨大資本の参入を促進することは得策ではないと考えます。一方で、同じ北海道内においても、増え続ける耕作放棄地に悩む養父市のような中山間地域もあります。
重要なことは、1つの統一的な規制を全国一律に適用するのではなく、地域の特性に応じた判断を国が各自治体に委ねることではないでしょうか。地域の特性に応じた農地政策によって、百花繚乱の農業が全国各地で輝き続けるよう引き続き研究活動に取り組んで参ります。
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波田 大専(はだ だいせん)
松下政経塾第39期生。平成元年生まれ。北海道大学経済学部卒業後、ホクレン農業協同組合連合会を経て松下政経塾に入塾。スマート農業や農福連携など、農業政策をテーマに現場で研究活動に取り組む。