今こそ考えたい。外国人労働者受け入れの心構え

2021年01月18日 06:00

※画像はイメージです(andresr/iStock)

世界的に感染症が拡大した2020年を境に、日本と外国との人の往来が厳しく制限されるようになり、外国人労働者を取り巻く環境が一変した。受け入れ自体は細々と続いているが、急激な景気の落ち込みにより、受け入れ先の企業に解雇され、帰国もままならず窮地に陥る外国人労働者も相次ぐ。昨年には、生活に困窮したベトナム人技能実習生の犯罪がセンセーショナルに報じられたが、その衝撃のあまりに本質的な問題を見落とさないようにしたい。(報道アナリスト 新田哲史)

センセーショナルな出来事のウラで

AIG損保では近年、顧客の食品製造業が外国人労働者を受け入れるにあたってのリスクマネジメントを研究し、企業側にアドバイスをしてきた。担当者の1人、守永貴子さん(コーポレート賠償保険部シニアアンダーライター)は、一連のベトナム人犯罪の報道について「真面目に働いている外国人労働者、特に同じベトナム人の方が偏見や差別に遭うのではないか」と懸念を示す。

食品製造業を含む14の特定技能制度が創設され、外国人労働者の受け入れが拡大したのは、つい2年前のことだ。当時を振り返ると、有効求人倍率で飲食料品製造業は全産業平均の2倍を超え(※1)、日本国内の若者人口減少を背景に業界の「人手不足」への悩みは深まるばかりだった。特定技能制度導入後、飲食料品製造業分野で1,402人の外国人材が働き始めたという(2020年3月末時点、※2)

人口減少のトレンドは止まっていない。このことは裏を返せば、感染症の問題が一段落し、景気や雇用情勢が回復してきたとき、外国人労働者を必要としていた業種では再び働き手の確保が問題になるのは必至だ。いざ、言葉も文化も違う労働者を受け入れるとなると、企業側も相応の体制整備が求められる。

「日本で働きたい」と思ってもらうために

同社では昨年、弁護士の協力を得て食品業界向けに「外国人労働者を雇用する際のリスクマネジメント」の冊子を制作。その背景に、企業側からニーズ増加があったのだという。AIG損保の中山岳也さん(傷害・医療保険部)は「関連する法律や労務管理をテーマとしたセミナーへのリクエストが多くなっていた」と話す。冊子では在留資格の確認といった入口から、労務管理の留意点など受け入れた後のことも多角的に記載されている。

まず大事なのは、言葉はもちろん慣習の違いをきちんと認識しておくことだ。たとえば労働条件の明示。日本人の働き方として、良くも悪くもサービス精神の旺盛さで時間や業務領域を柔軟に対応してしまうのはよく指摘されるが、冊子では「外国人労働者の中には、契約書で明記された業務以外は、する必要がないと捉える方や賃金から税金や社会保険料が控除されることについて認識がない方も多いのが実情」などと注意を促している。

見落としがちなことだが、冊子では、「キャリアパスの明確化や公正な人事評価」といった点も課題に挙げる。総務省の高度人材受け入れに関する政策評価書(※3)では、すでに外国人サイドから、キャリアパスや昇進・昇格・昇給の基準が不明確だという不満が示されている。

ただ、こうした問題を踏まえ、企業側も「日本で働きたいと思ってもらうためには給料や業務内容のほかに職場の人間関係や教育を受ける機会なども大切にしたいという流れが出てきている」(中山さん)という。

労災事故の教訓に学べること

他方、最大のリスクの一つが、不幸にして労災が現実に起きてしまった場合だ。民事訴訟に至ったケースもあり、冊子でも複数の判例が紹介されているが、外国人労働者が工場の機械で手を巻き込まれ、指の切断など大きな傷害を負った事故の責任が問われた裁判では、母国語での注意喚起が足りなかったことなどの安全配慮義務違反が認定されて、企業側に賠償を命じる判決が出ている。

JGalione /iStock

しかし、守永さんは「外国人の皆さんを大事な戦力として扱っている企業は、総じて事故や揉め事が少ない」と指摘する。上記の判例でもポイントになった「言葉」の問題でいえば、その壁を少しでも解消する努力を職場ぐるみでしている。

たとえば、事故防止のために、インドネシア、ベトナムなど出身国ごとのグループに別れて、日本人従業員の手本の後にきめ細かく手順を確認しあうといった熱心な取り組みをしている企業もある。また、ある工場では月に1回、地域住民も参加して料理教室を行い、外国人労働者が母国の料理作りを教えることを通じて地域社会に溶け込む機会にしている。

日本人が、外国人労働者の出身国の簡単な言葉を覚えて使ったり、お互いに教え合っているところもあるようだ。「ある社長さんは『うちは何か国語も無料でレッスンが受けられるようなものだ』と話されていた」と中山さん。感染症予防で工場内で手洗いが奨励されるようになると、AIG損保で手洗いや咳エチケットの啓発ポスターを企画・作成=下記画像=。顧客の企業に配布したところ、好評だったという。

AIG損保で制作した感染症防止啓発パンフレット。左から韓国語の社会的距離、タイ語の咳エチケット、中国語の手洗い

守永さんは「経営側も現場もコミュニケーションを取りやすい場づくりをしっかりやっていく意識が重要」と指摘する。すぐに取り組めるリスク回避はそうした心がけ次第のようだ。

(※1)農林水産省 食糧産業局「飲食料品製造業分野における 外国人材受入れ拡大について」
(※2)農林水産省 令和元年度「食料・農業・農村白書」
(※3)総務省 令和元年6月「高度外国人材受入れに関する政策評価書」


この記事は、AIGとアゴラ編集部によるコラボ企画『転ばぬ先のチエ』の編集記事です。 国内外の経済・金融問題をとりあげながら、個人の日常生活からビジネスシーンにおける「リスク」を考える上で、有益な情報や視点を提供すべく、中立的な立場で専門家の発信を行います。編集責任はアゴラ編集部が担い、必要に応じてAIGから専門的知見や情報提供を受けて制作しています。


編集部よりお知らせ:2018年9月から2年余り掲載してきた『転ばぬ先のチエ』は今回をもって終了します。長らくご愛読のほど、ありがとうございました。

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