世界の知性21人が問う「国家と民主主義」

2021年01月19日 06:00

政治に30年先を見据える力が必要

新型肺炎コロナの報道ばかりがあふれ、目先のことしか考えない、論じない。それもどうかと思い、近刊の「自由の限界/世界の知性21人が問う国家と民主主義」(中公新書ラクレ)を読みました。示唆に富みます。

metamorworks/iStock

仏のエマニュエル・トッド、仏のジャック・アタリ、イスラエルのユバル・ハラリ、米のジャレド・ダイアモンド、日本の岩井克人らの各氏が過去、現在、将来を見据え縦横に語っています。読売新聞が掲載したインタビュー記事の書籍化で、先行きが見通せない時代状況にマッチしています。

菅政権が誕生した際、経済学者の竹中平蔵氏は「アーリー・スモール・サクセス(小さくても早期に成功事例を示す)を」と、助言しました。その結果でしょうか、GoToトラベル、ハンコ撤廃、携帯電話料金引き下げなど各論先行の政策を打ちだしました。

それに対し「菅首相にはグランド・デザインが欠けている。政治理念が感じられない」という指摘が目立ちました。コロナ対策でも各論を出したり、引っ込めたりの迷走ぶりで、支持率は急落です。

ジャック・アタリ氏の指摘はこうです。「近年、日本の首相に会う度に『指導者に必要なのは歴史の大きな流れをつかみ、20年、30年先を見据える力だと助言してきた。長期戦略を持つことが最優先課題のはずだ』と言ってきた」と。竹中氏とは正反対の助言です。

さらにアタリ氏は「かれらの返答は判で押したように『明日、まだ首相でいるかどうか分からない』だった。指導力は発揮されず、日本は未来を台無しにしている」と、酷評します。

皮肉にもコロナ対策の迷走で、菅政権の支持率は30%台まで落ち、まさに「いつまで首相でいられるか」の状況です。コロナ後の経済社会の変化を見越して、どういう国にしていくかという構想がありません。

次の問題として、各氏が口をそろえているのは、「自由主義経済、グローバリゼーションの行き過ぎで、経済格差が広がっている」ことです。トッド氏は「世界をグローバル化に引き入れた米国で、グローバル化を告発する大統領(トランプ氏)が誕生した。歴史の大転換だ」と主張します。

岩井氏は「世界で最も開かれた民主国家であるはずの米国に暴君のような大統領が登場した。米国型の資本主義と民主主義の必然的な帰結だ」と、断言します。同時に「トランプ氏は政策の矛盾などで、短命に終わる可能性が高い」と予見、バイデン氏に敗れ、その通りになりました。

「自由放任主義的な資本主義は金融危機の可能性を増し、所得の格差を広げ、資本主義の正当性を失わせしまった」と、岩井氏。「仏学者のピケティ氏が指摘したように、米国は上位1%の高所得層が全国民所得の20%を得る。世界で群を抜いた不平等国になっていた」とも。

格差拡大による社会の分断の流れの中で登場したのがトランプ大統領、および熱狂的なトランプ支持者の出現でした。マレーシアのマハティール氏は「レーガン大統領が敷いた路線(1980年)は貧富の格差を広げた。格差に対する反発がトランプ当選(2016年)の一因だ」と。

格差問題で、ダイアモンド氏は「先進国12億人の生活水準の平均は、残る65億人の30倍以上。この不平等は先進国にとって脅威である。豊かさを求める移民の大量流入はその一つ」と。国内社会ばかりではく、国際社会における格差の拡大が世界の不安定要因だと考えます。

ハラリ氏も大きな歴史の流れを語っています。「第二次世界大戦で全体主義が廃れ、冷戦で共産主義が朽ちた。民主政治と自由経済、それによるグローバル化が支配的制度になった」「それも08年の米国発の金融危機以降、あやしくなった。貧富の格差が拡大し、未来は見通せない」

コロナ危機による経済社会の行き詰まりから、矛盾が一気に表面化しています。巨大な規模の財政金融政策にうってでると、マネー市場の「コロナバブル」が膨張し、実体経済との乖離が広がり、格差は拡大する。

ニューヨーク株は3万㌦の史上最高値を記録し、日本株も2万8千円で3年ぶりの高値です。1㌦103円で換算すると、ドル建てで日本株は273㌦で、89年のバブル期を超える市場最高値(13日)になりました。

実体経済が低迷する一方、株高・資産高が進めば、富める者はさらに富み、貧する者はさらに貧する。経済格差、所得格差の拡大です。

日本は米国ほど富の集中は起きていなくても、解雇・雇止め、廃業、倒産などで、若年層、未熟練労働者、働く母親に重荷がのしかかってきています。非正規雇用者ほど貧困に追い込まれています。

ハラリ氏はこうも語っています。「コロナは高失業を招いている。IT化、自動化が一気に進み、失業者の復職先が消滅している。新しい職を得るには、新技術の習得が必須で、大量の労働者の再訓練が必要になる」と。

国会が18日、始まりました。経済格差の拡大、転換期のグローバリゼーション、IT化・AI化に対応する就労支援、膨張する一方の財政赤字の拡大と、野党が追及できる問題はいくらでもあります。菅政権のコロナ対策の迷走を追及することくらいしか、今の野党にはできないのでしょうか。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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ジャーナリスト、元読売新聞記者

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