情報社会の今、もっとも広く利用されている情報提供手段がウェブである。ウェブサイトがうまく閲覧できない、フォーム入力できないといった問題があると、閲覧者はそのサイトが利用できない。ATMや券売機といったキオスク端末も、画面表示にはウェブ技術を用いているから、同様に利用できない、アクセシビリティの問題が起きる恐れがある。
この問題を解決するための技術基準が、ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)である。ウェブ技術の標準化を進める国際団体W3CがWCAGを出版してきたが、2021年1月21日に第3版(WCAG 3.0)の原案が公開された。
原案に対する意見が2月26日期限で募集されており、WCAG 3.0の完成は2022年以降と見込まれている。
WCAG 3.0が想定するユーザは、全盲・弱視・その他の視力に障害のある人、失聴と難聴の人、身体の動きや器用さが制限された人、音声に障害のある人、感覚に障害のある人、認知に障害のある人、学習に障害のある人、そしてこれらの組み合わせと多様である。
WCAG 3.0は、デスクトップ、ラップトップ、タブレット、モバイルデバイス、ウェアラブルデバイス、その他のWeb of Thingsデバイスにおける、ウェブコンテンツのアクセシビリティに対応する。
静的に提供されるコンテンツだけではなく、ユーザとのやり取りがあるインタラクティブコンテンツ、音楽や映像メディア、仮想現実や拡張現実など、さまざまなウェブコンテンツに対応するようにできている。
前身のWCAG 2.0は広く各国で規制に用いられてきた。米国・欧州各国・カナダ・オーストラリアなどでは、公共機関サイトはWCAG 2.0のレベルAAに準拠することが求められている。
なお、WCAG 2.0ではAAA、AA、Aの三つの水準が規定されていたが、WCAG 3.0ではこれを「金銀銅」に変えようとしている。
総務省が2016年に発出した「みんなの公共サイト運用ガイドライン」でも、国・地方を問わずすべての公共機関にWCAG 2.0のレベルAAへの準拠を求めている。しかし、きちんと準拠している組織は少ない。
新型コロナの蔓延と共に、正しい手洗いの方法を示す画像が国・地方から広く公表されたが、テキストでの説明が付いていないので、視覚で情報が取得できない人には通じない。画像には説明を付けるという、WCAG 2.0ではもっとも基礎的であるレベルAの技術基準を満たしていなかったわけだ。
WCAG 2.0への準拠を進めようとわが国が動いている間に、WCAG 3.0が完成し、世界各国が3.0への準拠に動けば、遅れは致命的になる。デジタル庁の創設によって、ウェブアクセシビリティについても取り組みが強化されるように期待する。