昨年11月、日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)が地域的な包括的経済連携(RCEP)に合意した。RCEPは米国が抜けた環太平洋経済連携協定(TPP)よりは格下だがアジア全域をカバーする。中国はRCEPに加盟した勢いでTPPにも入るとの意欲を示しているが、日米連合は中国加入には別の理由でひそかに強く反対している。
日米によって規制を守らない中国にいかに規則を守らせるかが共通の難題だ。他に日本には中国加入の前に台湾を加入させようとの思惑がある。中国の入らない経済連携に誘うのは不自然ではない。2001年に中国が世界貿易機関(WTO)に加入して以来、わがもの顔に振る舞うのにトランプ氏が激怒して、中国に罰則的高関税をかけるに至った。世界共通の悩みは次の3点だった。
①中国に立地した企業や資本参加した企業に企業秘密の開示を要求し、技術移転を強要。
②各国との貿易競争を有利に戦うために、政府補助金を使っていること
③知的財産権を無視すること。
①によって世界中の企業秘密を中国が集め、それに基づいて生産した製品を安価に流し続けた。当然、技術を提供した外国企業の利益が細り、株価が低下する。そこで一気に買収して丸ごと中国のものにしてしまう。
②の政府補助金に支えられた企業が、他の企業を打ち負かす例はかの有名なファーウェイにみられた。怒った米日英仏が同調した。この措置によって“補助金敗け”していた日本の半導体事業は息を吹き返そうとしている。台湾のISMCも同様だ。ファーウェイには機密を盗む「バックドア(裏口)」が埋め込まれているとも言われており、米英仏は一挙にファーウェイ離れを起こした。トランプ氏が激怒したのはファーウェイの政府補助金が製品価格の3割にも達していたことが判明したからだ。
③は言わずと知れたコピー商品の氾濫を指す。商品には生産国を刻印しなければならないなどの追加措置が取られたが、完全に焼け石に水だった。
RCEPの規則は相手がアジアだから、TPPより緩い規制にせざるを得ない。既に挙げた3点でさえ、中国は約束しないだろう。何せ国際仲裁裁判所の判決でさえ「紙屑だ」の一声で無視する国である。自民党内には「RCEPを作ったのは間違いだ」との声もある。中国はWTOの加盟をきっかけに世界の先端国に躍り出た。その魂胆がばれたから、世界からはじき出されようとしている。
現実には半導体の世界では中国製品と他の国の製品とが差別的に扱われ始めている。現在は5Gの世界で厳しい競争が行われている。米国の意志を無視すれば、敵国視されかねない。政治、軍事に関わる製品に限ってはかつてのココム(対共産圏輸出統制委員会)のようなものができるか、守られる貿易協定ができるか世界はまさに岐路に立っている。
(令和3年1月27日付静岡新聞『論壇』より転載)
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。