リップルという暗号資産をアメリカが叩く理由

有地 浩

ここのところ暗号資産が値上がりしている。ビットコインは昨年10月初めには1ビットコイン=1万ドル(約105万円)を少し超える程度だったものが、12月半ば以降急騰し、本年1月9日には4万2千ドル(約437万円)近くまで達した。その後やや値を下げたものの超金融緩和の追い風の中で、現在でも3万2千ドル前後を推移している。

JuSun/iStock

ビットコイン以外のいわゆるアルトコインもおおむねビットコインにつれる形で値上がりしている。

こうしたバブル的ともいえる暗号資産の価格上昇の傍らに、一人取り残されて低迷しているのが、暗号資産の中でもメジャーなリップル(以下リップルの発行体のリップル社と区別するため「XRP」と表記する)だ。

これは、昨年12月22日にアメリカの証券取引委員会(SEC)が、リップル社とその創業者及び現CEOを証券法違反で裁判所に提訴したためだ。

SECが問題としているのは、リップル社が投資家に対してXRPを販売することはXRPという証券を販売することになるためSECへの登録(認可)が必要であり、これをせずに販売しているのは違法というものだ。

これに対してリップル社は、XRPはSECへの登録が必要な証券ではなく通貨であり、このことは米司法省や財務省のFinCen(金融犯罪取締ネットワーク部局)などの主要な省庁が認めていることだと反論している。

また、リップル社は、SECが暗号資産の中でビットコインとイーサリアムだけを通貨として認定し、XRPは証券とするのは不公平だという趣旨の主張もしている。

私は、このリップル社の主張は大変もっともなことで、日本の金融庁もXRPは資金決済法上の暗号資産であって証券ではないという見解を示している。

しかし、大変逆説的ではあるが、私は、XRPが通貨であることが今回SECの提訴を招き、逆にビットコインなどは通貨と言われながらも実際には通貨の役割を果たせないことが、SECから「おとがめなし」とされている真の理由ではないかと思う。

ビットコインは2009年の創設当初、管理・運営主体が不要なブロックチェーン技術を用いることにより、政府・中央銀行の通貨発行権から独立した自由な通貨としてグローバルに流通し、将来は円やドルのような法定通貨にとって代わって、決済手段の中心になることが期待されていた。

しかし、これが実際に取引に用いられるようになると、ひとつの取引の承認完了までに10分以上かかり処理速度が遅いこと、ひとつのブロックの格納容量が大量のデータ処理をする決済業務には小さすぎること、価格が乱高下しすぎること等の欠点が明らかになり、ビットコインは決済手段としては不完全で、むしろ金などの貴金属のような投資や投機の対象とみなされるようになっている。

一方、2013年に配布が始まったリップルは、ビットコインのような管理・運営主体のいない完全な分散型のシステムではなく、リップル社が管理・認定する少数のヴァリデーター(validator)と呼ばれる者が取引の承認をする仕組みを取ったため取引の処理速度が格段にスピードアップし、データの処理量も十分大きくなったため、実用に耐え得る決済手段となった。

もっともXRPはそれ自体が通貨として支払の対価に用いられるというよりは、他の通貨を送金する手段、特に国際送金手段として構想されている点が特徴的となっている。

例えば東京で円をXRPと交換し、それをリップル社のネットワークに乗せてパリに送り、そこでXRPからユーロに交換すると言ったことが、高速かつ低コストでできるのだ。

しかし、これは現在ドルが世界の基軸通貨となっているアメリカにとって、ゆゆしきことだ。

それは、高速・低コストな国際送金システムができると、低速・高コストなSWIFT(国際銀行間通信協会)という国際銀行間送金システムが無用の長物になってしまうからだ。

以前フェイスブックのリブラに関する記事で指摘したが、アメリカはSWIFTを牛耳ることによってイランなど経済制裁対象国への送金をストップして経済制裁を有効化してきた。しかしこれがリップル社のシステムが主流になると、できなくなるのだ。もちろんSWIFTもシステムを改良してスピードアップを図っているが、SWIFTの銀行間バケツリレー的な仕組みはXRPの敵ではない。

また、XRPの利用が広がり、多くの個人や法人がこれを保有するようになれば、XRPはグローバルな共通通貨といった性格を持つようになり、いずれはドルにとって代わる可能性もないわけではない。

さらに、可能性はもっと小さいだろうが、仮に中国ないし中国系企業がリップル社を買収すれば、中国が世界の通貨覇権を握ることになる。これもアメリカとしては耐えがたいことに違いない。

2013年の創設以来XRPは、徐々に発展してきたが、今や時価総額で暗号資産第3位(現在は他の暗号資産がバブル的に高騰しているので第5位)となり、その送金ネットワークは各所で利用されるようになって来ている。スペインの大手銀行のサンタンデール銀行はリップル社の送金ネットワークを使って国際送金業務を行っている。また、Google や日本のSBIグループのように、リップル社の将来性を見込んで出資をする企業も現れている。

アメリカにとって、今リップル社の膨張を止めなければ、いつ止めるのだということだったのではなかろうか。SECのリップル社提訴は、こうしたタイミングで必然的に起きたことだと言えよう。

フェイスブックのリブラ(現在は改名されて「ディエム」)は、主要国政府・中央銀行の猛反対にあって現在つぶれかかっているが、私にはリップル社とXRPの前途も明るいものには見えない。