陽性者増加は気象が主要因/欧米編-まさかの展開

[前前回記事]では、日最低気温の前週との差(以下「気温差」とする)の増減とコロナ感染の実効再生産数の増減のタイミングが非常によく一致していることを、東京都の観測データを用いて示しました。

[前回記事]では、東京都以外のいくつかの地域(札幌市・愛知県・大阪府・福岡県・沖縄県)でも概ね東京と同様の関係が認められることが判明しました。

そこで今回は、新型コロナが大流行している欧米各地でもこのような関係が認められるのか検証してみたいと思います。

■米国

今回検討の対象としたのは、冒頭の図に示す西部の3州・中部の3州・東部の3州です。

以下、これら各州について、日最低気温の前週差と実効再生産数の関係を順に示したいと思います。なお、各州の個別のグラフにおいては、気温低下量が-2度を超えるポイントについて、アルファベットの記号を付して示しています。また、気温差については、実効再生産数との比較を平易にするため、図の最下部中央に示す特定のラグ(日数)だけ後にずらして表示しています。また、各州の気温差は[気象庁発表]の州最大都市の気温データから算出、実効再生産数は[wordometer]の感染データから簡易法を用いて算出しています。

◆西部

全体的な傾向として、9月上旬より前の感染数が少ない時期の対応は比較的明瞭ではないものの、9月下旬以降は気温差のボトムと実効再生産数のピークがよく一致しています。また、気温差と実効再生産数のタイムラグは10日程度と非常に低い値となっています。これには地域住民の免疫特性が関係している可能性があります。

ワシントン州

陽性者数が低い時期のa,bについては気温差と実効再生産数の対応関係が不明瞭ですが、c以降は両者の変化のタイミングがよく一致しています。このワシントン州の感染拡大に大きな影響を与えたのは-7度を超える気温低下量を伴ったeです。

ユタ州

ケント・ギルバートさんの出身地としても知られる大自然あふれるユタ州の感染拡大はcで始まり、-10度の気温低下量を伴ったeで急拡大しました。

カリフォルニア州

全米で最も多くの陽性者が認められているカリフォルニア州の感染は大統領選挙あたりから増加してきました。陽性者の増加に大きな影響を与えたと考えられるのはc,d,eです。ただし、最も顕著な流行期に相当するeの気温低下量はそれ程大きくありません。

◆中部

西部と同様、陽性者数が多くなる9月下旬以降に気温差のボトムと実効再生産数のピークがよく一致しています。また、気温差と実効再生産数のタイムラグは2週間程度となっています。西部ほど短くはないものの、日本よりは最低でも1週間程短い値です。中部は気温差が鬼のように大きいのが特徴です。

サウスダコタ州

気温差のボトムと実効再生産数のピークが概ね一致しています。陽性者数の縮小局面で気温上昇量の大きなピークが認められます。

イリノイ州

ボトムとピークが概ね一致しています。合致しない個所であるgとhおよびiとjについては、2つのボトムにそれぞれ1つのピークが対応していると考えれば解釈しやすくなります。

テキサス州

全米で2番目に多い陽性者数が観測されているテキサス州では、9月末から4か月にわたる長期の上昇が認められますが、その間に波状攻撃のように気温差のボトムが襲来しているのがわかります。

◆東部

気温差と実効再生産数のタイムラグは中部と同様2週間程度です。

ニューヨーク州

c,k,hのピークが不明瞭ですが、他は明瞭な実効再生産数のピークが気温差のボトムに対応しています。やはり-5~8度の大きな気温低下量をもつ気温差のボトムが感染拡大局面に大きな影響を与えている可能性が考えられます。NYでは「いつでも誰でも何回でも」をスローガンにPCR検査を街中でガンガンやりましたが、気温変化には勝てませんでした。

ノースカロライナ州

こちらもe,h,i,jという大きな気温低下量をもつ気温差のボトムが感染拡大局面に大きな影響を与えている可能性が考えられます。

フロリダ州

温暖なフロリダは、日本の沖縄県と同じように、振幅がほぼ等しい周期的な波が規則的に認められます。しかしながら冬になると気温低下量が大きくって波が不規則になるようです。

■欧州

今回検討の対象としたのは、地域による気候差が比較的大きくないと考えられるベルギー・ドイツ・フランスです。データの出所は米国のケースと同じです。気温差と実効再生産数のタイムラグはいずれも16日で日本よりも短いと言えます。

◆ベルギー

b,fのピークが不明瞭ですが、マクロには気温差のボトムと実効再生産数のピークが対応していると言えます。

◆ドイツ

e,fのピークが不明瞭ですが、マクロには気温差のボトムと実効再生産数のピークが概ね対応していると言えます。

◆フランス

フランスでは、夏からの慢性的な実効再生産数の高止まりが感染拡大に大きな影響を与えたと考えられます。フランスの場合も気温差のボトムと実効再生産数の一部のピークとの対応が不明瞭ですが、マクロには気温差のボトムと実効再生産数のピークが概ね対応していると言えます。一部のピークとの対応が不明瞭なことをあえてエクスキューズすれば、一つの国の気温傾向を一都市の気温データで代表させている影響が十分に考えられます。

以上、欧米の場合についても、日最低気温差のボトムと実効再生産数のピークのタイミングがよく一致しました。このことは、基本的に四季が認められる地域においては、気温差、あるいは気温差と相関関係がある気象要因(例えば圧力差)が陽性者の増減に強く関係していることを示すものです。

最後に欧米と日本の違いについて簡単に言及しておきます。

◆東京

欧米、特に米国中部は日本に比べて気温差の変動の振幅が大きく条件は過酷です。また、気温差と実効再生産数のタイムラグはいずれも日本よりもかなり短いと言えます。これについては、自律神経の乱れに欧米の住民が敏感に反応して免疫力を即座に低下させている可能性があります。逆に日本国民は、免疫力に気象変化に対する耐性があるために少し時間をおいて感染のピークを迎えている可能性が考えられます。もしかすると、これが感染を遅らせている「ファクターX」の正体かもしれません。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2021年1月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。