私が所属している佐倉市議会の2月定例会で運用が確定した「議長の権限強化」について報告する。運用の仕方によっては「議長による議員の検閲行為」ともなりかねない極めて危険な決定であるため、その概要と問題点を紹介する。
昨年の11月議会で、ある議員が、いわゆる怪文書をもとに一般質問を行った。議員の一般質問は、市の事務全般を対象として行われるものであるから、情報の出所が怪文書とはいえ法的な配慮を怠らなければ事実関係を質問すること自体に問題があるわけではない。しかし、市長が「通告なしで行われた質問」と認識し、その他当該11月議会で発生した事象などとともに、市議会議長に配慮してほしい旨の申し入れをしたことから、議長がそれを重く見たことにより、先のとおり「議長の通告内容の確認強化」を実施することとなった。
出所不明の怪文書の内容を紹介することでアゴラの名を汚すわけにはいかないし、そもそも本論の筋はそこではない(とはいえ、事実関係は独自調査で確認済みではあるが)。この「怪文書にからむ質問」を含む昨年11月議会の一般質問を契機に、佐倉市議会の議長が決定した内容が、本論の争点だ。
「議長の通告内容の確認強化」の具体的内容
通告というのは、議員が議会で「こんな質問をしますよ」というタイトルと概要を、事前に議長を通じて市役所側に提示する行為であり内容だ。事例として、昨年の佐倉市議会における通告一覧をあげておく。
ここで、次回2月定例会で実施される「議長の確認強化」の理由と内容を示す。ちなみに、ここに記した理由と内容は、12月14日開催の会派代表者会議、及び議会運営委員会の私の傍聴メモと、事後ヒアリングした内容による。
【通告内容の確認強化の理由】
11月定例会の一般質問にて、以下のような問題が発生した。
- 通告された質問中、複数の質問がされなかった
- 通告されていない質問があった
- 市の一般事務の範囲を超えた質問があった
【確認強化の内容】
上記の反省をふまえ、議長が、一般質問の通告内容の確認をする時間を確保するため、通告の締め切りを休日含め5日間早め、必要があれば各議員に通告内容を確認する。
補足すると、議会における議事の整理は、地方自治法104条で認められた議長の専権事項だ。例えば、通告に公序良俗違反が認められる場合や、明らかに市の事務を超える質問である場合の確認などは、議長権限の範囲内である。
しかし、今回問題なのは「11月議会の反省」を踏まえて、5日間も締め切りを前倒ししたうえで、適宜「各議員に通告内容を確認する」としている。つまりこの場合、従来の枠を超えた何らかの措置を前提としている、と考えるのが自然だ。
課題解決にならない「議長権限強化」という残念な方策
今回決定した「議長の確認強化」という方策では、あげられている問題のほとんどは解決できない。その理由を説明する。
まず、「1.」の通告された内容が議会で質問されなかった、というのは、質問する議員と市役所とのやりとりがかみ合わず、結果時間を使い果たしてしまうことから発生する。これのどこが問題かというと、通告された内容については、市役所側が相当時間をかけて調べ、答えを用意する。通告された質問が残ってしまうと、市役所側の労力が無駄となってしまうことから、市役所としては「それならはじめから通告しないでよ」ということになる。
このように、「通告残し」が発生する原因は、議員と市役所とが、議会において「噛み合わない」ことからおきる「時間切れ」であることから、事前に議長がいくら「質問のタイトル」である通告を確認したとしても予見できない。よって、今回の議長の確認強化では解決できない。
次に、「2.」の「通告されていない質問があった」とする件も、そもそも「通告されていない質問」は、通告内容をいくら確認しても予見できないことから、確認強化では解決できない。
「3.」の、市の一般事務を超えた質問がなされる問題についてだけは、確認強化で予見できる可能性がある。例えば、「日本の国防予算の推移について」という通告があれば、それは国の話なので、通告した議員に議長が確認のうえ、必要に応じて訂正を求めることができるだろう。
では、例えば11月議会にあった通告の例でいうと
1.新型コロナウイルス対策
(1)新型コロナウイルス対策のこれまで
という通告の場合どうか。新型コロナウイルス感染症の対策は、国、県、市それぞれの役割において発生する。そのため、上記通告内容だけでは、「市の一般事務を超えた質問がなされるかどうか」がわからない。
検閲と確認の危うい関係
そこで、議長が議員に対してどこまで「確認」することが可能だろうか?例えば、「どういう質問にするか内容を聞かせなさい」という要請は、私は問題があると思う。理由は、議長は党派性を帯びた存在であるから。かつて音喜多議員が指摘したように、事前に一般質問の内容を競合する他会派の議員に知られた場合、他会派の議員は様々な工作を図り「質問潰し」をする可能性がありうるからだ。
その意味で、議長が議員に対してできる確認は「これは、市の事務を超えた質問にはならないですね?」というあたりまでが「ギリギリのライン」であると考える。もし仮に、議長が議員に対して「質問の内容の詳細を確認させてください」と「要請」し、議員が断った場合通告を受け付けない、などの運用をしたら、それは憲法第21条第2項で禁止されている「検閲」だ。そうなれば、これは議会史上前代未聞の大問題となるだろう。
このように危険極まりない決定であるため、もしこのような「議長による通告のチェック」がどうしても必要なのだとしても、過去の通告等を引きながら「こういう通告の場合、どういう確認がなされるのか」という議論を精緻に重ね、全議員が納得する地点まで落とし込んで、書面化することは必須だ。
さらに、議長が確認するために5日間も通告締め切りを早めるということは、議員の質問に5日分の時事性を失わせることにつながる。例えばコロナ問題にしたところで、5日間で状況は大きく変わる。その「失われた5日間」と、根拠も薄弱な「議長の確認」を比較したとき、市民にとってどちらがより重いといえるだろう。
しかし、佐倉市議会では、運用に関する具体的な説明もない中、12月14日に開催された「会派代表者会議」と「議会運営委員会」で、畳みかけるように「議長権限の強化」を決定した。なお佐倉市議会の場合、私のような無会派の議員には、上記どちらの会議体にも参加する権利はない。
そこで、本決定に問題があると考える10名の議員の連名で、今回の決定を見送り、より問題解決につながる方策を文書で提示したが、議長から顧みられることがなかったため、本稿を書いた次第である。
読者にはあまりなじみのない問題ではあると思う。しかし、このような「地味だが重い決定」がいとも簡単になされてしまうことが、今地方議会でおきているというスナップショットを残すことは、とても重要であると考える。
もしこの事例に近い状態にある議会があるようであれば、ぜひ教えてほしい。