1月30日、ジャーナリスト・池上彰氏が司会を務める「池上彰のニュースそうだったのか!!」(テレビ朝日)が放送されたが、その中で、池上氏が明らかに誤りであることを堂々と述べていたので、正しておきたい。それは、この発言だ。
「バイデン大統領、中国の人権問題に関心があるわけですね。例えば、新疆ウイグル自治区の多くの住民が強制収容所に入れられてるとか、香港の民主化運動の人たちが次々に、捕まっているということ、ああいう問題に関して、トランプ大統領は、これまで何も言ってきませんでしたからね。全然、人権問題に関心がなかったわけですね。ところが、バイデン大統領、民主党というのは、人権問題を重視するので、もっと人権を守らなければいけないと言うのではないか」
この発言に嘘が紛れ込んでいることは、賢明なアゴラ読者ならすぐにお気づきだろう。中国の人権問題に関して、トランプ大統領が「何も言ってきませんでした」「全然、人権問題に関心がなかった」という点だ。
「中国に牙を向くアメリカ議会」(鎌田 慈央 アゴラ 2020年07月11日)が指摘しているように、トランプ大統領は昨年6月にウイグル族弾圧の責任が認められる中国の当局者に制裁を科すよう政権に義務付けるウイグル人権法案に署名した。
今年に入ってからも、政権交代前の1月14日、中国が新疆ウイグル自治区で少数民族に強制労働をさせているとして、自治区で生産された綿製品とトマトの輸入を全面的に禁止すると発表した(ブルームバーグ 米国、新疆ウイグル産の綿製品とトマト輸入禁止へ-強制労働指摘 2021年1月14日))。
香港の民主化弾圧についても、トランプ政権は昨年7月、弾圧の責任を負う中国当局者に制裁を科す法律に署名するなど、トランプ政権が中国の人権問題に対して厳しい姿勢でのぞんできたことは、高橋克己氏が書き続けてきた通りだ。
「香港自治法」も米上院を通過、「香港人権法」より中国に痛い?(高橋 克己 2020年06月28日 アゴラ)
トランプからのクリスマスプレゼント!?「チベット政策および支援法2020」の中身(高橋 克己 2020年12月24日 アゴラ)
きわめつけは、「アジアの人権活動家たちのバイデン政権への不安」(古森 義久 2021年01月30日 アゴラ)でも紹介されているように、反トランプの急先鋒であるニューヨーク・タイムズ紙が、「Trump Is Better’: In Asia, Pro-Democracy Forces Worry About Biden」(2020年12月1日)なる記事を掲載していることだろう。
池上氏が「バイデン大統領が関心を持っているが、トランプは何もしてこなかった」としているウイグル問題についても、真逆のことが書かれている。
中国の新疆ウイグル自治区出身のウイグル人活動家でアメリカ在住のサリス・フダヤー氏は「トランプ政権は中国政府のウイグル人弾圧に対して全世界の他の政府すべてを集めた以上に多くの抗議や制裁の措置をとってくれた。だがバイデン政権には懸念を抱いている。バイデン氏とその側近の過去の言動から判断すると、新政権はウイグル問題で中国政府と対決するという姿勢は窺われないからだ」と語った。
これらを見ただけでも池上氏の発言の「嘘」が明確になるだろう。トランプ大統領が人権問題に関心がないなら、このような事はしない。
自らの名前を関したレギュラー、特別番組を何本も持ち、時事問題解説者として名を馳せる池上氏が、なぜこのような発言をしたのか疑問だ。無知ではなく、明らかに一連の流れを知っていて「嘘」を言っているようにすら思えてくる。トランプ前大統領が嫌い過ぎてついついそう言ってしまったのか。
池上氏の番組は分かりやすいが、その中には時々、「嘘」が混じっているので、注意しなければいけない。