中国の核戦力が倍増へ(古森 義久)

顧問・麗澤大学特別教授   古森義久

中国の核戦力の増強に対してアメリカからの抗議や懸念が改めて強く表明された。今回のその契機はアメリカとロシアが核軍備管理条約の延長を決め、中国の参加をも求めたのに中国は拒否したことだった。中国は全世界でも最も積極的に核兵器を増強し、しかもその内容を秘密にしている。中国の核戦力は日本にも強烈な威嚇の効果があり、米国側では日本が自主的に中国の核軍縮を求めることへの期待も述べられた。

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アメリカとロシアの首脳は1月26日、米ロ間の新戦略兵器削減条約(新START)の期限切れを目前にして、この条約を今後5年間、さらに延長することに合意した。この条約は今の世界で唯一の核兵器の削減、あるいは管理の国際取り決めとして重視されてきた。

だが戦略核兵器は近年、中国が目覚ましく増強してきた。公式の核兵器保有国、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5ヵ国の中でも中国がその増強では最も速度が速く、規模も大きいとされる。だから特にアメリカはその中国に新STARTの延長を機に新加盟することを求めてきた。だが中国政府はこの要請を拒んでいる。

アメリカとロシアはさらに核兵器では長距離の「戦略」の下のレベルの「中距離核戦力(INF)全廃条約」に合意して、地上配備の中距離ミサイルを全廃してきた。だが中国はここでもこの条約の枠外にあり、近年は中距離ミサイルを大増強し、1千数百基を配備するに至った。トランプ政権はこの中国の増強とロシアの不履行を理由にINF全廃条約を破棄した。

そうした中国の核の脅威が新STARTの延長によって改めて国際的な注視を集めるようになった。その中国の核戦力の脅威の実態についてはトランプ政権のマイク・ポンペオ国務長官とマーシャル・ビリングスリー軍備管理担当特使がニュース雑誌のニューズウィークに1月上旬、寄稿した論文が注目されている。

同論文は「中国の核戦力増強を西側陣営は懸念すべきだ」と題され、中国の核兵器の大規模で積極的な増強がアメリカやその同盟国の安全保障に重大な脅威を与えるようになった、と警告していた。

同論文はトランプ政権の包括的な情報と分析をまとめた形で、世界の核保有国の中でも中国だけはまず核武装の内容や規模や戦略を一切、明かさず、しかも一国だけ核兵器の管理や削減のための国際合意には一切、かかわっていない点を強調していた。その上で同論文は習近平氏が2012年に国家主席に就任してすぐに「核兵器こそが中国を大国とする基礎だ」と宣言し、その後、核兵器とそのためのミサイルの部隊を「ロケット軍」として特別に位置づけ、中国人民解放軍が建国100周年の2049年には「世界級の軍隊」になるための不可欠な要素だと言明した。

ポンペオ氏らの論文はこの中国の核の脅威について以下の骨子を述べていた。

中国は2019年の北京での軍事パレードで核弾頭搭載可能な各種ミサイルを誇示したが、その部分の行進の長さは約5キロ、10年前の同種のパレードの際の10倍となった。その中にはアメリカ本土に30分で届くDF41ミサイルも含まれていた。中国が核戦力を今後10年間に現在の少なくとも2倍にする方針が確認されている。

中国軍は中距離の戦域弾道ミサイルも1000基以上をすでに配備した。この種のミサイルの多くは核弾頭の搭載が可能で、非核の通常弾頭との併用ができる。この範疇のミサイルは東アジアのアメリカ軍を標的にするとともに、アメリカの同盟諸国を威嚇して、屈従させることを意図している。

中国は2018年と2019年の両年に全世界の諸国全ての合計よりも多い回数のミサイル発射を記録した。2020年にはその2年間の合計をさらに上回る220回の弾道ミサイル発射実験を実行した。中国が核兵器開発の実験場としている新疆ウイグル自治区のロプノールでは年間を通じての極めて活発な活動が続いている。

中国は自国の核兵器に関して、有事でも他国より先には使わないという「先制不使用」の原則を公式には掲げてきたが、最近では自国への核攻撃がありそうだという警告に基づいて先制でも核兵器を使用するという「警告による発射」の態勢へと移行しつつある形跡がある。

ポンペオ国務長官らの論文は以上のように中国の核戦略の危険性を報告し、さらに中国がアメリカなど他の核保有国と異なる閉鎖的で不透明な核システムを保持していることを以下の骨子のように警告していた。

アメリカ、ロシア、イギリス、フランスの核兵器保有国すべてはその核戦力の実態や戦略を具体的に示す資料や文書を定期的に公表し、核兵器態勢の透明性を保っているが、中国はそのすべてを秘密にしている。

その結果、中国の核戦力はインド太平洋でのアメリカの戦略的な態勢やアメリカの同盟国、友好国の安全保障への重大な脅威となっている。アメリカは中国が自国の核戦力の実態を公表して、その透明性を高めることを年来、要求してきた。

アメリカは特に中国の核戦力の脅威で悪影響を受ける同盟諸国に対して、中国の核の危険性を認識して、中国当局に核態勢の透明性やその軍備管理、軍縮への着手を求めることを要請してきたが、その期待どおりの結果は得られていない。

上記の「同盟諸国」には当然、日本も含まれる。確かに日本は中国の核兵器の脅威にさらされながらも、中国に対してその懸念の表明や透明性の確保の要請などをしたことは皆無である。

一方、アメリカはこの1月28日のバイデン新大統領と菅首相との電話会談でも明示したように、日本に対する「拡大抑止」を保証してきた。「拡大抑止」とはアメリカが日本に対する核の攻撃や恫喝に対しても同盟国として対抗の防衛措置を採るという意味の抑止で、よく「核の傘」とも評される。つまりアメリカが自国の核戦力を日本の防衛のためにも最悪の有事には使用するという公約だと言える。

アメリカが核戦力という面でも同盟国の日本にここまで積極的な姿勢を見せる以上、その受益国の日本が目前の最大脅威である中国の不透明な核態勢に沈黙を保ったままという状態に不満をもらすことも自然だと言えるだろう。

古森  義久(Komori  Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年1月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。