コロナワクチンの争奪戦が始まっている。イスラエルは首相がファイザー社と17回も直談判して確保し、すでに接種を受けた国民が50%を超えている。次いで接種率の高いのが、アラブ首長国連邦である。日本は3月から高齢者向けに開始されると言っていたのが、早くても4月1日以降となっている。企業も利益の大きい方を優先するに決まっている(失礼だが、株主の利益のために会社があるのだから当然だ)
国益を競っているとメディアは批判しているが、国益ではなく、政権維持のために必要な道具となっているのが正しい認識ではないのか?絶対的な切り札となる治療薬がない状況では、ワクチンがこの流行を終息させるための希望である。ただし、南アフリカ変異種に対しては有効率が60-65%に落ちるとWHOの人がコメントしていたのが心配だ。
地球上の77億人が平等に接種を受けることが理想だが、ファイザー社のワクチンのように超低温で保管する必要があるものを平等に届けることなどできるはずもない。日本国内であっても制約があるのだから、広大な土地に人が散在するようなケースでは、なおさら難しい。そもそも一気に77億人分が用意できるはずもないので、取り合いになるのは自然の摂理である。
民主的国家では選挙の際の支持率が重要だ。自国民にワクチンが行き渡っていない段階で、外国にワクチン支援と言っていては支持率に影響する。感染症の終息は、経済的回復の鍵となるので、どの国でもコロナ感染症の制御は最優先課題である。EUも数千億円のワクチン開発投資をしたのに、EUで生産されたワクチンをEU外に輸出されても不快に思うのも当然だ。ヨーロッパでの感染は終息には程遠いのだからなおさらである。WHOに予算支援をして後進国にもワクチン配布する仕組みが作られているが、WHOがすべての国に対して公平・公正にワクチンを配布することができるのかどうかも疑問だ。
そして、イスラエルは公的保険で、医療情報も管理されているので、アレルギーなどの既往歴も把握されていると言っていた。デジタル化も、円滑なワクチン接種のために不可欠だ。4月以降始まるはずのワクチン接種を受ける高齢者でも、多くはスマホを持っている。この情報を活用できないのだろうか?10年前の東日本大震災の時、地震・津波で診療情報が失われ、持病のある方々は、治療の継続性が棄損された。診療情報の管理体制を見直す必要性を訴えたが、当時の政権は聞く耳を持たなかった。その人たちが、現政権に偉そうに人災だと批判をしているのを聞くと虚しい。目糞鼻糞を笑うの世界だ。30万人もの津波被災者の健康管理のために何か立派なことをしたのか?その反省があるなら、もっと建設的な議論ができないのかと思う。
そして、内閣府のAIホスピタルプロジェクトでは、人工知能アバターを利用した患者への説明と同意、問診などのシステムができている。ワクチン接種の際の医療従事者の負担軽減につながるはずだが、縦割りでこのような情報が他省庁に伝わらない。10年前の震災後に津波被災者の健康調査を提案したが、省庁縦割りで見事に無視された。そして、今も省庁縦割りが続き、行政改革の言葉だけが踊っている。残念ながら、私は、10年前ほどの情熱を持てなくなったのか、このような状況にまず諦めの気持ちが優先する。悲しいかな、私も歳をとったものだ。
PS:テレビで東京都内の人出が先週より増えていると報道されたいた。先週の日曜日は雨で気温も低かったから当然だ。気を引き締める必要があると言いたかったのだろうが、あまりにも低レベルな報道だ。天気も良かったので駒沢公園など驚くほどの人出だった。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年1月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。