信用保証料は適切か?住宅ローン保証料の最適な計算方法 --- 新妻 博佳

住宅ローン借入に当たり信用保証会社の保証を得るよう勧められ、従った経験のある方もおられよう。その際、借入時の一括前払保証料、或いは中途弁済時の返還保証料が適切か検算した方はおられるだろうか?

結論を言えば、現行方式では知られないまま保証料の過大請求や過小返還が多発しており、早急に改善を要する。

住宅ローン保証料を長年調査・検証した結果を踏まえ、業務の適正・適切化に資すべく簡略に纏めたい。

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1.外枠方式の仕組み

ローン保証料の支払形態には大規模アパートローンに利用される内枠方式(ローン金利に基本保証料率0.2%を上乗せし月次後払い)と、中規模アパート・住宅ローンに広く利用される外枠方式(ローン開始時に保証料を一括前払い。繰上完済、条件変更に伴い保証料の返還や追徴が起きる)がある。

本稿の対象は外枠方式である。同方式は実勢残高を用いず想定残高を基に計算された保証料率を用いる。それが融資窓口にある保証料一覧表(一覧表)であり、この料率計算を担う式は

n年度保証料=(n年度想定保証平均残高×基本保証料率)/(1+運用利率)^n .  式1

である。具体的には融資金額1百万円(単位融資金額)、期間20年なら理論金利9%による毎月返済ローンを想定し、1年毎の想定保証平均残高、基本保証料率0.2%と運用利率8%でn=1~20年度まで個々に計算する。尚、 /(1+0.08)^n は前受金の運用を見越した利回り補正措置である。

計算個々の値が年度保証料で、その総合計が一覧表の期間20年の期間保証料14,384円/百万円になる。1年から35年までほぼ同様の計算を繰返すと一覧表の全体が完成する。更に期間保証料に年度保証料を内訳併記した保証料詳細一覧表(詳細一覧表)が作られ、保証変動に伴う返還や追徴計算を可能にする。

以下、現行方式の保証料計算を幾つか再現、検証しつつ、指摘及び改善策を提案する。

2.据置のない新規保証料

住宅ローンを中心に広く使用され、現行方式は次式を使う。

新規保証料=融資金額(百万円)×期間保証料率(円/百万円) .         式2

例:融資金額21.1 百万円、期間20年なら一覧表から保証料率 14,834円/百万円を見つけ式2で321,997円になる。適切である。

3.据置のある新規保証料

アパートローンに最長5年の据置が許容され、現行方式は次式を使う。

新規保証料(据置)={融資金額(百万円)×1,200(円/百万円・年)×据置期間(年)} +

{融資金額(百万円)×期間保証料率(円/百万円)} . 式3

式上段が据置部分で金額、料率と年数で計算、下段が返済部分で新規保証料の式2で計算する。

例:融資金額100百万円、期間30年(据置5年、返済25年)なら一覧表から25年の保証料率17,254円/百万円を見つけ式3で2,325,400円を得るが誤り、式に問題がある。

問題点:(1) 据置部分の固定料率1,200で5年間一定は式1と不整合

(2) 基本保証料率0.2%から保証料率1,200(信販系1,800)が導けない

(3) 返済部分の6年目以降の保証料率に一覧表の25年を使うのは式1と不整合

改善策:式1に則った保証料率表作成シミュレーション(シミュレーション)を作成し、想定保証平均残高を期間30年(据置5年、返済25年)に変えるだけで据置を含む期間保証料率19,696円/百万円を得る。新規保証料の式2を使い1,969,600円が得られ、現行方式は355,800円、信販系は655,800円の過大請求が生じ借手が不利益を被っている。

 4.全額繰上完済の返戻保証料

返済途中で全額繰上完済すると、当初保証料から経過分を除いた未経過分が返還される。現行方式は次式を使うが、部分的に不適切がある。

返戻保証料=融資金額(百万円)×未経過保証料率(円/百万円) .         式4

例:融資金額21.1 百万円、期間20年〔据置なし〕、完済時期4年3ヵ月時点とする。詳細一覧表から未経過保証料率8,151.25円/百万円、式4で171,991円となり適切である。

部分的不適切とは〔据置あり〕の新規保証料に底通する問題で、据置用の詳細一覧表の不在が原因だった。そこで据置可能なシミュレーションの活用で、新規は式2、繰上完済は式4で据置有無の何れの処置も可能になる。(提案方式1)

5.各種条件変更の全面改訂

現行方式は理論軽視の対症療法のため相互整合性と適切性に欠け、過大請求や過小返還が生じるので銀行ローン同様の決済・新規方式を保証業務へ導入することを検討した。その理由は条件変更が常に新規保証料で繋がり、連続する何れの条件変更でも何にでも整合性と適切性を保てるからである。

先ず、銀行ローン金利を固定から変動に変更する場面を想定しよう。その理由はこのとき保証料の過不足のない中立的状態が現れるからで、その条件が次の構成式である。

決済:返戻保証料={融資金額×未経過保証料率(n-a)}×

(1+運用利率)^a×{実勢残高(Aj)÷理論残高(Ar)} .  式5

新規:受入保証料=実勢残高(Aj)×期間保証料率(n-a)

返戻保証料の上段右辺は残存期間 n-a の全額繰上完済の式4に相当する。下段 (1+運用利率)^a は期間a年の運用補正、最後の {実勢残高(Aj)÷理論残高(Ar)} は減殺補正と言い、実勢残高(Aj)は条件変更時点の残高である。理論残高(Ar)は保証料計算する際の理論金利によるシミュレーション上の同時点の残高を意味する。

受入保証料は残存期間 n-aの新規保証料の式2に相当する。

イ.決済・新規を検証する

検証の事例値、決済の方は融資金額21.1百万円、実勢金利3%、理論金利9%、運用利率8%、期間20年、変更時期4年3ヵ月 (a=4.25年) 、未経過保証料率(n-a)8,151.25円/百万円。新規の方は期間15年9ヵ月(=20年 – 4年3ヵ月) の期間保証料率(n-a)12,441.75円/百万円。尚、理論残高Arと実勢残高Ajは次に示す。

理論残高19.1455492百万円(=21.1×Ar、単位融資金額比のAr=0.907372百万円)

実勢残高17.6087220百万円(≒21.1×Aj、単位融資金額比のAj=0.834565百万円)

ここで、返戻保証料を式5、受入保証料を新規保証料の式2で計算。

決済:返戻保証料=(21.1×8,151.25)×(1+0.08)^4.25×(17.6087220÷19.1455492)

=219,390.40円             : (A)

新規:受入保証料=17.6087220×12,441.75

=219,083.31円             : (B)

故に 返戻保証料=(A)-(B)=307円

307円は誤差。実は、式5を詳細に分析すると理論上完全な過不足なしが証明され、式6となるが、紙幅の関係で証明を省く。式5の生成過程や式6の意外性など、詳細説明の機会を別途得られれば幸いである。

ロ.条件変更の一般化

決済側の式5又は式6による計算値を変更時点における「決済基準」と定める。対する新規側の融資金額(内入、不変、元加)、据置(あり、なし)、期間(延長、不変、短縮)の組合せで新規保証料を計算し、あとは「決済基準」との大小関係だけで返還、追徴が一意的に決まる。これで決済・新規による条件変更の一般化が完成する。(提案方式2)

6.保証料計算のまとめ

現行方式の不適切で統一性に欠く据置と条件変更が、提案方式1と2により簡素で公平、公正な三種の計算システムに収まる効果は大きい。

新規保証料(据置機能を追加)     : (提案方式1)

全額繰上完済(据置機能を追加)    : (提案方式1)

条件変更(据置機能+決済・新規)   : (提案方式1+2)

7.問題の背景等及び結論

上記諸問題は保証理論の未整備、かつ検証、文書化の認識もなかった1970年代後半、誰かが手探りで開発した瑕疵ある処方が他社に提供され、完成品として業界内に拡散したと見て取れる。半世紀も前の欠陥に気づけなかったのは、理論的難しさもあるが、皆が同調することで安堵し、業界内に検証と文書化の機運が全く高まらなかったからであろう。

開業以来、無難に捌いてきた業界には寝耳に水であろうが、本稿を機に検証、文書化を進め、計算に関する議論を深め、借手の被る不利益解消と、ローン現場担当者が安心して運用可能な体制整備が望まれよう。

新妻 博佳(にいつまひろよし)
1950年2月生まれ。東北学院大学工学部電気工学科卒業。旧三和銀行で支店勤務やオンラインシステム開発の後、融資業務に長く従事。152月定年退職。