森失言が示す政治の劣化に国民は烈火の怒り

政治人材を集め、政界の刷新が必要

東京五輪組織委員会の森喜朗会長がJOC評議員会で、女性を蔑視する発言をし、女性が怒りの声をあげています。よりによって五輪が半年後の7月開催というタイミングの悪さです。これは失言ではなく、本音の放言でしょう。

NHKニュース7より

次々に妄言を繰り返す元首相の言動は、日本政界の劣化の象徴です。国民がコロナ禍で苦しむ中で、政治家の不祥事、スキャンダルがあとを絶ちません。政治の劣化に国民も烈火の如き怒りを覚えています。

「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」「女性を増やしていく場合、発言の時間をある程度、規制しなければならない」。本人は翌日、謝罪し、発言を撤回しました。そんなことをしても、森会長の本音は消せません。

五輪開催に8、9割が反対している微妙な時期の発言とは信じられません。女性に対する考え方がまずおかしい。発言した場合の世論の反応も考えていない。女性理事の割合を40%以上とするJOCの目標にも反する。これで五輪中止に追い込まれるとみる国民も多いでしょう。

五輪開催に反対の声が一段と高まるでしょう。組織委会長としての判断能力、人間としての基本的な社会常識に欠けることを証明してしまいました。安倍前首相の後見役だった森氏を、恩返しのつもりで任命したのが失敗でした。安倍氏は能力より恩義を重視したのです。

本人は「辞任を求める声が強まれば、辞めざるを得ないかもしれない」と言いました。半年後の7月開催予定という時期に、会長交代をしたら五輪は空中分解です。そのことを頭に入れず辞任に触れるとは信じ難い。騒ぎに気がつき、「辞任はしない」と否定したのも、情けない。

外電にも女性蔑視の発言は報道されました。「東京五輪の会長は何を考えているのか」と、日本は世界の笑いものです。森氏だけが笑いものになるならともかく、「日本はそんな国か」と思われるから困る。

では男性はどうか。菅首相などは「その件については、コメントを差し控えます」とか、理由も言わず「断じてそんなことはない」の類の発言が多い。何を考えているのか、言葉が少なすぎて分からない。

森氏の妄言ばかりではありません。日本政界では、次々に政治の劣化を示す不祥事、事件が続いています。

コロナ危機の中、銀座のクラブ通いがばれ、3人の自民党議員が離党しました。河井案里参院議員が選挙区での大規模買収事件で議員辞職、夫の河井克之衆院議員もで公判中です。

自民党本部から提供された1億5千万円が買収資金の原資で、資金拠出に安倍、菅氏は無関係とはいいがたい。二階・自民党幹事長の側近とされる秋元司衆院議員はカジノ誘致に絡む汚職で逮捕され、公判中です。

不透明な話が「あるわ、あるわ」です。 週刊文春が4日、「菅首相の長男が総務省の次官ら幹部を違法接待。決定的瞬間をスクープ撮」です。長男が勤務する会社の業務に対して許認可権を持つ総務省に接近するのが狙いだったのでしょう。長男は菅氏が総務相だった時の大臣秘書官でした。

総務省幹部は、「菅首相の長男」の接待を受け、のこのこ料亭に出向くなんて情けない、信じ難い。菅首相の影によほどおびえているのか。

政界の劣化はまず、「自民党1人勝ち」でまともな野党が存在しなくなったことにも起因します。次に自民党議員の3割が世襲、閣僚は4割が世襲という異様な政界風景です。小選挙区では世襲が圧倒的に強い。政治家が家業化し、外部の人材は参入しにくい。

世襲でない多くの議員は、汚職や不透明なカネに手を出さないと、やっていけない。挙句の果てに不祥事を起こし、逮捕されたのが河井夫妻や秋元議員です。世襲議員でない菅首相は議員秘書から政界に入りました。苦労して叩き上げで政治家になろうとする道は狭く、人材が集まりにくい。

今後、ますますこのよう傾向が強まるでしょう。世襲の制限、小選挙区制の見直し、知事や市長から政界に参入する道の拡大、政界を中立的に監視できるジャーナリストの育成など、政界刷新を考えるべきです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。