トランプに飲み込まれる共和党、伝統的なアメリカ保守主義の終焉

鎌田 慈央

二つの決議

先週、共和党所属の二人の政治家の処遇をめぐって、二つの決議が行われた。ひとつは、ワイオミング州選出の下院議員リズ・チェイニーが共和党ナンバースリーの座に値するかどうかを巡る決議。そして、もうひとつがジョージア州選出の下院議員のマージョリー・テイラー・グリーンを委員会から除名することを決める決議。

RobinOlimb/iStock

この二つの決議は、一見して別々の出来事のようにも思われる。しかし、筆者は、これらの決議は、共和党の現在地を測るものであり、これからの共和党が進んでいく方向性を考える上で重要であったと考える。

折り紙付の共和党政治家

リズ・チェイニー議員(本人ツイッターより)

まず、チェイニー議員の経歴と彼女が今回の決議の対象にされた経緯を振り返ろう。チェイニーは折り紙付きの共和党員である。第一に彼女の父は共和党下院議員として約10年務め、フォード政権、父ブッシュ政権では要職を経験し、子ブッシュ政権時には副大統領を2期経験したディック・チェイニーである。日本の政治的文脈で言えば彼女は「二世議員」である。しかも、大物政治家の二世である。そして、父と同様に外交・安全保障政策に関してはタカ派であり、小さな政府論者であることから、レーガンから続く伝統的な共和党の思想を受け継いでいる。

それに加え、わずか30代の時に第一次子ブッシュ政権で次官補のポストを得て、初当選から短期間で共和党のナンバースリーの役職である共和党会議議長に就いたことから分かるように実務能力に長けて、一部からは共和党の未来を担う存在だとささやかれている。

そんな彼女に注目が集まったのが、トランプ大統領の弾劾訴追を巡る採決が下院で行われた1月13日である。多くの同僚が訴追に反対する中で彼女を含めた計10人の共和党下院議員たちが民主党に同調して賛成票を投じた。

これに怒り狂ったのがトランプを狂信的に支持する彼女の下院での同僚たちである。その筆頭格であるゲーツ議員は彼女の地元であるワイオミング州まで赴き、同州の共和党員に向けてチェイニー氏を役職から外すことを訴えた。

そして、ゲーツ氏に続き、他のトランプ派の下院議員もチェイニー外しに同調し、彼女の信任投票が共和党下院議員の間で行われることになった。

トランピズムの申し子

マージョリー・テイラー・グリーン議員(本人公式サイトより)

次に紹介するグリーン氏は、チェイニー氏と似ても似つかない存在である。経歴が華やかでトランプ氏に対して批判的なチェイニー氏と違い、グリーン氏は政治経験が全くない一年生議員であり、トランプ氏の熱狂的な支持者である。

それだけではなく、グリーン氏は当選直後は陰謀論者の政治家として注目を集めていた。彼女はアメリカのエリート層が子女の人身売買に関わっていると主張するキューアノン(QANON)への共感を表明しており、それに加え、9.11やフロリダ州で起こった銃撃事件が仕組まれたものだとも主張しており、物議を醸していた。

同時に、反エリート、反メディア、反ポリテイカルコレクトネスなどといったトランプ氏との共通的な特徴を兼ね備えており、且つトランプ氏本人からの推薦も獲得していたことから、共和党の一部からはトランプ氏と同様に熱狂的な支持者を獲得している。

だが、根拠の無い主張が問題視されたことで、議員としての資質が疑われ、彼女が所属する予定だった委員会にそのまま任命するべきかどうかを議会が決めることになった。

沈黙が暗示する共和党の現在地

この2つの決議の結果はどうなったのか?共和党下院議員のみで行われた決議では全体の3分の2以上にあたる、145票の信任票を得たチェイニー氏は役職にとどまることできた。

一方で、グリーン氏は民主党が過半数を占めている下院が一体となって除名決議が行われ、共和党からも11人が除名に賛成したこともあり、結果的には所属する予定だった委員会から除名されることになった。

この結果だけを見ればチェイニー氏がこれからの共和党の顔となり、トランプ2.0とも言えるグリーン氏の存在感が小さくなるようにも思えるが、現実はそうはならないと筆者は考える。それは2つの決議の投票方法を見れば明らかである。

チェイニー氏の決議は匿名投票で執り行なわれ、グリーン氏のものは発声投票で行われた。匿名の投票では下院のほとんどの共和党下院議員がチェイニー氏を守ることでトランプイズムをある意味では否定しようとした。しかし、公に自らのトランプ氏への忠誠心を示す機会となった議場における発声投票では、チェイニー氏に信任票を投じた数より多い共和党下院議員が、グリーン氏の除名を阻止しようとした。

つまり、彼らのほとんどは心の中ではトランプ氏の傍若無人ぶりに辟易しているが、トランプ氏の熱狂的な支持者に政治的にも物理的にも攻撃される恐れからトランプ支持を打ち出さずにはいられない実情があると読み取れる。共和党の議員たちが未だにトランプ氏に忖度をしなければならないほど、依然として前大統領は党内で影響力を保っているのである。

もはやコントロールは不可能なのか?

しかし、今の共和党の現状に対して筆者は一切同情しない。なぜなら、トランプ前大統領を散々持ち上げ、利用した挙句の自業自得の結果だからである。自党の政治的アジェンダを押し進めるために、党内で絶大な人気を誇るトランプ氏の影響力を利用し、共和党の支持母体が喜ぶ政策の実現を図ってきた。その結果により、トランプ氏の権威は一段と高まり、グリーン氏のような存在が共和党に居座ることができる状態が生まれ、伝統的なアメリカの保守主義を重んじる共和党員の居場所がなくなりつつある。

共和党は自分たちが作り上げた怪物を制御できず、飲み込まれようとしている。