世界トップの医療体制を活かせない要因は「司令塔不在」だ

田原総一朗です。

緊急事態宣言が3月7日まで延長された。新規感染者は減少傾向にあるものの、自宅療養の方が亡くなるなど、医療の逼迫が大問題になっている。

1月29日深夜の「朝まで生テレビ!」に、慈恵医大病院の大木隆生医師に出演していただいた。大木氏は血管外科の世界的な名医である。感染症専門以外の医師からの話は、非常に勉強になった。

大木氏は現状の医療について、「大学病院や都立病院で新型コロナ患者を受けいれる必要はない」と言う。

私は詳しい説明を求めた。

「新型コロナはコモンディジーズ ※ です。治療法もパターン化していて、高度な施設を必要としません。大学病院や都立病院などは、高度先進医療を担う施設を持っています。こうした施設を必要とする、ガンや脳卒中、心筋梗塞、大動脈解離などの病気を請け負い、それ以外の病院で新型コロナ患者を診る。現状では、日本の病院の8割にあたる、民間病院が活用されていないんです」※ 日常よく見られる症候

日本の病院数やベッド数は、世界でもトップクラスだ。しかも新型コロナ感染者は、欧米と比較すれば桁違いに少ないのに、医療が逼迫してしまっている。それは、この8割の民間病院が、活用されていないからなのだ。

大木氏によれば、受け入れ意欲のある民間病院はあるが、保健所や自治体のチェックが入り、2カ月も待たされるなど、障壁があるのだという。大木氏は「オペレーションが大事だ」と強調した。

ではどうすればいいのか。

1月31日の「激論!クロスファイア」では、元厚労大臣の塩崎恭久衆院議員に聞いた。塩崎氏の意見もまた、「民間病院を活かすべき」というものであり、「医療の選択と集中だ」ときっぱりと言った。

調査結果を見ると、大学病院の入院患者の、約3割が「無症状」である。

しかし「無症状」あるいは「軽症」の患者をすみやかに移せる医療施設がないため、そのまま大学病院に入院せざるを得ないのだ。

「症状に応じて、あるいは病院の能力に応じて引き受けてもらう。病状にふさわしいところに移っていただく、そのための司令塔が必要だ」

という。

塩崎氏は、「この国は『感染症有事』のときにも、切り替えができない国なのか」と危機感を抱く。

たとえば、昨年、安倍前首相は、「PCR検査を増やす」といったが、増えなかった。

安倍前首相は「目詰まりあった」と釈明した。

「トップが言っていることと、現実に末端で違うことが起きる国なのだ」と塩崎氏は嘆息した。

そして「目詰まり」が起きないような、「強力な司令塔が必要だ」と繰り返した。

たとえばオーストラリアは、新型コロナ対策のため、「ナショナル・キャビネット」を立ち上げた。首相と8つの州の知事たちで構成され、感染対策などを決定し、意思統一される。

日本は今、感染対策に、菅首相、田村厚生労働大臣、西村新型コロナウイルス感染症対策担当大臣、そして新型コロナワクチン接種推進担当の河野大臣が関わっているが、果たしてその体制でいいのか。

日本の医療は、質、量ともに、本来なら世界に誇るべきものだ。

しかし現状はオペレーションのまずさ、「司令塔不在」のために、逼迫してしまっている。

せっかくの宝物を活かすためには、政治が動くしかないのである。

菅首相はじめ政治家たちは、本当にわかっているのだろうか。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2021年2月12日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。