WHO調査団の日程を武漢発の外電を参考にまとめてみた。

1月14日:中国側の強い抵抗もあって、調査団派遣は遅れてきたが、WHOと中国側の合意が実現、WHO調査団は武漢入り。その後、2週間の隔離期間を中国側が準備していたホテルで過ごす。その期間、調査団は中国のウイルス関係者との意見の交換をオンライン会合の形式で進めた。

1月29日:現地視察を開始。WHOの専門家が武漢に入って以降、市民には調査団関係者と接触しないように外出を禁じた。市場は昨年1月1日に閉鎖されて以降、立ち入りが厳しく制限されていた。

1月30日:ウイルスとの戦いで勝利したと宣伝する「展示会」を見学。中国共産党政権のプロパガンダの日程の一つだ。

1月31日:2019年12月に最初に集団感染が確認された華南海鮮市場を視察した。中国当局は市場の周辺にバリケードを設置し、警官などを配置し、市民が調査団と会わないように腐心した。当局は海鮮卸売市場を既に整理していた。「調査団が今、毎日会っている市民は、当局が事前に配置した人に限られているという声が強い。すなわち、WHOの調査団は何も新しい事実を発見できずに終わるというわけだ」(海外中国メディア「大紀元」)。

その予想は当たった。武漢市は19年12月31日、華南海鮮市場の関係者の間で「原因不明の肺炎」が発症したと初めて公表。中国当局は当初、市場で売られていた野生動物が感染源との見方を強め、昨年2月には野生動物の取引を全国で禁止した。

2月2日:市内にある動物の感染症対策を行う施設を視察。

2月3日:調査団はこの日、トランプ前米政権が新型コロナウイルスの起源と見てきた「中国科学院武漢ウイルス研究所」を視察した。

WHO調査団が「武漢ウイルス研究所」流出説を否定するだろうということは事前に予想されていた。同調査団に「武漢ウイルス研究所」と共同研究してきたメンバー、英国人動物学者、ピーター・ダザック(Pete Daszak)が参加していたことから、「研究所の視察は中国共産党政権のシナリオに乗って運ばれたもので、視察から新しい事実が見つかる可能性は最初からなかった」(「大紀元」)というのだ。

ダザック氏は英国人動物学者で、米国の非営利組織、エコ・ヘルス・アライアンス(EcoHealth Alliance)の会長を務めている。米国立衛生研究所(NJH)が2015年以降、コウモリ由来コロナウイルスの研究のために、エコ・ヘルス・アライアンスに370万ドルの助成金を提供してきたが、その一部が過去、「武漢ウイルス研究所」に流れていたという。

同氏はまた、武漢ウイルス研究所と共同で20本以上の論文を発表するなど、両者は緊密な関係だ。そのダザック氏が調査団の中に加わっていたことから、「WHO調査団は客観的に調査ができるか」という疑問の声が聞かれたわけだ。ダザック氏は昨年2月、研究仲間と共に国際医学誌「ランセット」で声明を発表し、そこで新型コロナウイルスの武漢ウイルス研究所流出説を「陰謀」と主張している。

視察中のダザック氏は5日までに、「中国でコウモリの生息する洞窟を訪れて遺伝情報をさかのぼり、新型コロナの起源を調べる必要がある」と主張するなど、「武漢ウイルス研究所」流出説を否定する発言をしている(ロイター通信)。同氏の発言は典型的な情報操作だ。調査対象を「武漢ウイルス研究所」から「コウモリの生育する洞窟」に向けさせる狙いがあったのではないか。

WHOのテドロス事務局長は新型コロナウイルスの感染が明らかになった直後、習近平国家主席と会談し、中国側の対応を評価するなど、その中国寄りの発言は国際社会で物議を醸した。WHOの武漢市の現地調査はその意味で一種のアリバイ工作に過ぎず、それ以上でも、それ以下でもなかった。

中国がWHOの武漢調査団の派遣を受け入れたのは、ダザック氏が調査団に加わることをWHOが了解したためだ、といった深読みの解説記事すら報じられている(大紀元)。

ちなみに、崔天凯( Cui Tiankai)駐米中国大使は7日、CNNとのインタビューで、「WHOは武漢ではなく米国国内で新型コロナウイルスの発生源を現地調査すべきだ」と提案している。WHO調査団の現地調査を終えた直後、中国共産党政権は素早く米国への情報攻勢に乗り出している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年2月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。