コロナ禍のロサンゼルスで観た事、聞いた事、考えた事(吉田正紀)

2021年02月14日 06:00

JFSS政策提言委員・元海自佐世保地方総監(元海将) 吉田正紀

前回のレポートを脱稿した直後、急遽、私達夫婦はワシントンD.C.を離れ、自宅のあるロサンゼルス(LA)のトーランスに3週間休暇で滞在することになった。現在自宅にはLAで共働き中の次男夫婦家族が住んでいるが、3人目の出産予定日が迫る中、嫁(義娘)の母が、年明け以降の東京及びLAでの新型コロナの感染拡大(特に、変異種の発生)で、両国間の入国及び自主隔離等の措置が一段と厳しくなったため渡米を断念せざるを得ず、急遽のピンチヒッターとなったという次第である。したがって、今回のレポートは正確には”LA VIEW”であり、「番外編」とでも言うべきものであるが、DCでは中々見えない米国の現状を確認できた。

家族保護のための休暇とはいえ、全米(全世界?)でも有数の感染地域であるLAであり、出発直前にはLA郡保健当局が「感染新型コロナウイルスに感染した住民が約3人に1人の割合に上るとの推計を公表した。」とか「新型コロナウイルスの累計感染者数が100万人を超えたと発表した。」とかで、会社関係者やDCの仲間たちからは随分心配されたが、到着して2週間を過ぎた率直な感想は、DCと同じく「自分たちのコミュニティー内でとどまる限りは安全」だという事に尽きるかと思う。

ただし、国際政治中枢都市DCの場合には、都市機能を維持するためのエッセンシャルワーカー(医療従事者、宅配業者、スーパーの従業員、介護や保育の仕事に関わる人、公共交通機関で働く人、ゴミ収集業者など)以外は、政府職員、外交官、政治家、そして私のような駐在員など殆どがリモートワーカーという二極化が進み、借りているコンドミニアムが所在する高級住宅街とその周辺で、感染予防の原則を維持して生活する限りは感染のリスクはほとんどないと言っても良い。

一方、GDPは3兆ドル超で、全米1位、国に置き換えれば世界5位の規模を誇るカリフォルニア州の中心地LAには映画産業や観光業、飲食産業というコロナ過で打撃を受けた産業以外にも、食品加工や衣類製造などの軽工業、半導体産業などのハイテク産業があり、エッセンシャルワーカー以外の職業の市民の多くもリモートワークへの転換が難しいという特徴があり、もちろん、息子夫婦もこうしたビジネスの連鎖の中で生計を立て、2人の子供を育てているので、DCの私達のような“隠棲”生活はそもそも難しい。そこで、自主隔離中の10日間、彼らにインタビューした事を手掛かりにWEB上で調査し、更に10日間の自主隔離明け後に、彼らの生活圏及びLAを回り見聞して、彼ら所属するコミュニティー(地域、職場、子供の学校)等で流布する情報を中心に分析した結果、中々興味深い事実をいくつか発見した。

まずPCR検査に関する認識の相違である。DCでもLAでもPCR検査は、設置された検査センター等で簡単な事前手続きのみで本人の症状にかかわりなく受検可能である。ただし、DCの場合はエッセンシャルワーカー以外で、この検査を積極的(自覚症状がないにもかかわらず)に受けるというモーメンタムはあまりない。その理由は、リモートワーカーにとって受ける必要性(メリット)が少ないからである。従って、私の主宰する勉強会のメンバーで、これまで受検したのは大統領選挙等の取材で飛び回るメディア会員が主であった。例えば、私達が昨年末に日本に帰国し、DCに戻る時点の規則では「到着後にPCR検査を受けて陰性であれば自主隔離期間は7日間、受けない場合には10日間」となっていたため、私達は10日間の自主隔離を選択した(今回強化された日米間の入国規制では、相互に航空機搭乗前の72時間以内のPCR検査の陰性照明が義務付けられたため、滞在ビザの更新等で帰国を余儀なくされた駐在員等は受検している)。

一方、LAでは昨年の4月末にはPCR無料検査体制が早々と開始され、現在は検査方法に多少の違い(口内粘膜採取と鼻腔粘膜採取、多くの場合には自分で採取)はあっても、誰でも極めて簡単に検査が受ける事が出来るし、実際に多くの市民がこの検査を積極的に受けているが、その理由は感染予防といった保健衛生ではなく、「働いて収入を得るため」という切実な動機からである。前述のように、リモートワーカーが少数派であるLAでは、それ以外の市民は、エッセンシャルワーカーはもちろん、その他の職業に従事して日々の糧を得る職場の多くでは、雇用の条件にPCR検査による陰性証明が明記されており、かつ雇用後も定期的にそれが要求される。従って、正規、非正規、長期、短期労働にかかわらず、「一人の市民」は複数回のPCR検査を受ける事になる。

PCR検査と労働が密接にLINKしているため、どうしても働いて日々の生計を立てる必要がある市民の中には、仮に一回陽性判定が出ても、PCR検査の検査誤差にかけて陰性が出るまで一日に何度でも検査を受ける輩もいるそうで、次男が聞いた話では「4度目の検査でやっと陰性証明を獲得して堂々と働いている」猛者も複数いるとの事で、次男家族が属するコミュニティーでは「最初の3回の陽性検査も感染者数に数えるのだからLAの感染者数なんてあてにならない」という結論になっているそうである。

また、同様にコロナによる死亡者についても、「死因がコロナの場合には、病院にも遺族にも給付金が出るので何でもかんでもコロナで死んだことにしている。だからLAの死者数や、死亡率が高い」というのも通説だそうである。こうした通説の真偽は別として、彼らは、SNS等を通じてコロナ禍でも繋がりを維持或いは強化して、情報交換やメンバー相互での交流を頻繁に行って逞しく生活をしている。そこでは、DCで話題にしがちな支持政党や信条に基づく「分断」ではなく、むしろ日々の生活に密着したコミュニティー単位の「分散化」あるいは「部族化」が進展していると感じた。

自主隔離が明けた平日、次男の運転で一年ぶりにLAのビバリーヒルズ、ハリウッド及びダウンタウンを訪れた。次男にとってもダウンタウンは久しぶりであったが、高速を降りて閑散とした通りを眺めながら、有名なレストランやクラブが営業を止めてベニヤ板で閉鎖された状況などの説明を受けつつ更に中心街に入った時、眼前に飛び込んできたのは左右の歩道を埋め尽くしたホームレスのテントであった。この光景を見た時、私達は正直言葉を失った。一年前に来た時にも、ホームレスはいたが、散在し、かつその横を一般の市民や観光客が歩行をしていた。現在は歩道から車道にはみ出ていて、とても歩行できる状態ではなく、この光景は“Little Tokyo”のツーブロック前まで続いていた。とても車を停車する勇気がなく、我々はダウンタウンを抜けて、次にビバリーヒルズの中心地である、ロデオドライブに向かった。この高級店が連なるエリアには流石にホームレスの姿はなく、閉鎖された店も無く整然としていたが、観光客や買い物客の姿もほとんどなく閑散としていた。ただし、どの店も営業は続けており事前予約で来店時間を知らせるシステムを採っている様だった。中には、店外に列を作っている人気店もあり、次男曰く、「コロナバブル(トランプ政権の補助金等)で日頃持ち慣れないお金を持ち、かつ貯蓄という意識がない人々が、結構ブランド品を買い漁っている」という説明(これもコミュニティーの通説)であった。

帰宅後に観てきたホームレスの状況について、最も長くLAに住み市民権もある義娘に尋ねたところ、6年前にダウンタウンにあるアパートメントに住み、そこにあるオフィスに通勤していた頃から比べると感覚的にはホームレスは倍近くに増えているという印象であり、実際、今回、義娘が当時住んでいたアパートメントの前も通ったが建物の外側の最上階から一階まで鉄格子のようなフェンスで覆われていた。次男曰く「ほとんどのテナントは出て行ってしまっただろうな」という事であった。LAホームレスサービス局が実施した2020年のホームレスカウントによると、同郡でホームレスになった人は66,436人で、前年のポイント・イン・タイムカウントから12.7増加した。LA市は16.1%増の41,290人だった。2011年のLA当局の資料では、LA郡が51,340人、LA市が23,589人とあったのでLA市内のホームレスの増加数は義娘の感覚はあながちオーバーではない。もちろん、この増加を単純にコロナ禍に起因させることは早計であり、私が各種分析を基に実施した分析では、オバマ政権から始まった、都市部の不動産価格の急激な高騰と、上位所得者層(1%)への富の偏重(20%)による中間層の減少と低所得者層の拡大といった要因に、コロナ禍が拍車を掛けたと言える。

さて、私達がLAで「過酷な休暇」を過ごしている最中の2月4日(木)に国務省でバイデン大統領が初の外交演説を行った。日本のメディア各社見出しは、「米国の同盟は財産」、「米国は戻って来た」、「中露対決鮮明」や「中国、重大な競争相手」など様々な視点から報道されていたが、一番時間を費やしたテーマは、「中流階級のための外交」すなわち内政重視・再生であった。19分の演説の内、約4分と他テーマより3倍以上も費やし、演説の順位も最後(トリ)を占めており、過去の発言とも合致し、間違いなく最重要テーマであると感じた。内政再生において、「Buy American」と題した大統領令に触れ、労働者の雇用促進、技術投資の強化そして不平等な国際貿易行為の打破を指摘、次いで「America is Back」について述べ、労働者・中産階級の生活水準を改善、経済格差や不平等の是正を目指すというものであった。

当に、私が短いLA滞在で感じた労働者層のバイタリティ、飽くなき上昇志向(アメリカンドリームの実現)を支援することで、米国は競争力を強化し、台頭する中国に対するより強力な防波堤となるというものであった。一方、そうした支援の「さじ加減」を誤ると、低所得者層の増加、あるいはそこから更に下層のホームレスに陥る国民が増える危険もあるという事も事実である。コロナ過で誕生した米国市民権を有する我が家族の「新たな命」の為にも、バイデン新政権の「米国再生」を応援したいと思うのは些か「爺馬鹿」であろうか?(2月11日64歳の誕生日)

吉田 正紀(よしだ まさのり)
1979年、防衛大学校人文社会学部卒業。海上自衛隊入隊後、海自幹部候補生学校教育部航海船務科教官、護衛艦「いそゆき」乗組(水雷長)、海上幕僚監部(以下、「海幕」)人事教育部厚生課給与室員、護衛艦「さわゆき」砲雷長兼副長、護衛艦「いわせ」艦長、海幕防衛部防衛課防衛班先任班員、海幕人事教育部教育課学校班長、第2護衛隊司令、海幕指揮通信課長、在米日本大使館防衛駐在官(防衛班長)、海幕指揮通信情報部長、海自幹部学校長、佐世保地方総監を歴任し、2014年退官(海将)。同年11月から慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授。現在JFSS政策提言委員、双日米国副社長(国際安全保障担当)。ワシントンD.C 在住。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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