弾劾されるべきはペロシ!? 仕掛けたトランプ弾劾裁判は二度目も無罪

米連邦議会議事堂襲撃事件を扇動したとして弾劾訴追されたトランプ前大統領に対する上院の弾劾裁判は13日、トランプの「反乱扇動」の責任を問う採決を行い、有罪57票、無罪43票と有罪に必要な出席議員の3分の2に達せず、無罪評決が下された

トランプ元大統領とペロシ下院議長 Wikipediaより

今回の弾劾訴追を下院多数の民主党が決めた時、挙って「史上初めて二度も弾劾される大統領」などとトランプの不名誉を報じたメディアは、今回の評決でもトランプ無罪が決した今、なぜこの二度の弾劾を主導した民主党ペロシ下院議長の責任を問わないのか、というのが筆者の感想だ。

ちょうど一年前の2月4日、世界の人々はトランプ大統領が一般教書演説を終えた直後、ペンス上院議長の臨席でペロシ下院議長が、持っていた演説原稿を掲げて破り、机上に放り投げるのを目撃し唖然とした。理由を問うたロイター記者にペロシは「それが礼儀正しいことだからだ」と答えたという。

なんとも意地の悪い態度だと呆れたが、演説前に握手を求めたペロシに、知ってか知らずにかトランプが応じなかったことが原因ともされる。だとしてもあからさまに原稿を破って見せるとは! この気の強さこそ齢80を超えた今なお30年余り下院議員を続けられる原動力か。

実はこの翌日の20年2月5日には、ウクライナ疑惑に係るトランプの一度目の弾劾裁判の上院議員による評決があった。そこでトランプが問われた「職権乱用」と「議会妨害」の罪は、前者48票、後者47票と共に3分の2(67票)以上の有罪に届かず、無罪評決となった。

ペロシが原稿破りをした前日までに、この裁判の審議は大方済んでおり、上院与野党の占有議席の数からも翌5日に、今回と同様の無罪評決が出ることは明白だった。トランプはその間にも悠然と米朝首脳会談に臨んだ。そのことがペロシの苛立ち原因ではないかとは、誰もが思うことだろう。

そもそもウクライナ疑惑の発端は、一時期バイデン新大統領の息子ハンターが、当時なんらかの疑惑で検察捜査の対象となっていたウクライナの天然ガス会社ブリスマの役員をしており、副大統領だったバイデンがウクライナに、ブリスマ絡みで検察への働き掛けを要請したのではないかというもの。

トランプ弾劾は、彼がウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で、軍事支援と引き換えにバイデン親子のウクライナ疑惑を捜査するよう要請したとされることが職権乱用に当たるとの容疑で、19年にペロシ下院議長主導の民主党が訴追したもので、そもそも本末転倒していた。

そして今回の弾劾。裁判を行う上院は与野党50対50で、有罪には共和党17人の離反が要る。無罪はほぼ自明だったが、ペロシの強気は、米メディアAxiosが1年の調査の結果、昨年暮れに中国女性スパイとのハニトラ疑惑と報じられたスウォルウェル下院議員を、敢えてこの裁判の管理委員に据えさせた。

そもそも辞めて民間人となった者を、公職を追うことが目的の弾劾に掛けることには憲法上も疑義がある。暴動を扇動したのなら、刑事事件として罪を問う途もあろう(マコーネル共和党上院院内総務はそれを示唆している)。だが、上院は暴徒乱入のビデオ「鑑賞」などにも時間を費やした。

暴徒の狼藉ぶりよりも、トランプがそれを扇動したか否かが焦点であろうから、無駄な時間と筆者には思われた。その意味で最も印象的だったのは、ある共和党議員が「演説に扇動されたのかと、乱入者に聞いた者がいるか」と問い、数十秒の沈黙の後「いないようですね」と質疑を終えた場面だ。

夜中までライブ中継を見ていて、一度だけ議会が騒然とした場面があった。それは先月の下院弾劾訴追の時にトランプ弾劾に投票した10人の共和党議員の1人の、ワシントン州選出の共和党下院議員ジェイミー・ビュートラーを証人に呼ぶかどうかの評決だ。

一旦は55対45で彼女の招致が決まったのだが、後にビュートラーの声明を評決に入れ込むとかで、招致なしとなった。呼べばこの先また数日掛かることを避けたとされる。

彼女の主張は、1月6日の暴動の最中にケビン・マッカーシー共和党下院院内総務がトランプに電話した際、二人は怒鳴り合い、トランプが「まあ、ケビン、私はこれらの人々が君よりも選挙に腹を立てていると思う」述べて、制止を呼び掛けるのを拒否していたことを、彼女が「マッカーシーからが聞いた」というもの。

前記はCNN報道だが、エポックタイムズの記事には、トランプは「そもそも議事堂に侵入したのはアンティファだと信じて」いて、「そうではなくトランプ支持者だ」というマッカーシーに「まあ、ケビン・・」の発言をしたとある。トランプが議事堂の様子を詳しくは認識していなかったのではあるまいか。

結局、有罪が57票だったので、折角手間暇かけた審議も空しく共和党議員の転向者は2名に過ぎなかったことになる。コリンズ、ロムニー、サッセ、トゥーミー、マーカウスキーは反トランプの常連だったから、ビル・キャシディとリチャード・バーが新たに加わった。

前掲のエポックタイムズに依れば、評決が出た後ペロシは「何度かテーブルを叩いて『共和党の臆病なグループ』と、反対票を投じた上院議員を批判」し、「前大統領を非難することに興味はない」が「駐屯軍を間違った目的で使用したことで人々を非難する。議事堂の人々を殺す暴動を扇動したとして人々を非難することはない」と付け加えたそうだ。

フォックス・ニュースからもペロシ発言を拾えば、「正義は行われなかった」、「共和党の臆病なグループは自分の仕事を守ることを恐れ、彼らが奉仕する組織を尊重」して「憲法の保護よりも彼らの政治的生存をより心配している」などというもの。

不鮮明な態度に終始したマコーネルに対しては、ペロシは、彼は「不名誉な服務規定違反」との演説で一旦はトランプを爆破したが、弾劾裁判では憲法上の懸念を理由に「無罪」と認めた。彼が「演説」をしたのは、トランプ氏が辞任するまで弾劾裁判の開始を遅らせる「言い訳だった」と非難した。

しかしペロシが何と言おうが、彼女が主導したトランプに対する二度の弾劾裁判の評決は何れも無罪だった。無実の罪を着せ、トランプの名誉を棄損し、議会と議員の貴重な時間を浪費させたことの損害はペロシが負うべきものではないのか、と筆者は思うのだが。