タクシーはなぜクラウンだったのか、と疑問を持った方はいらっしゃるでしょう。昔はいろいろな種類のタクシーがあったのですが、仕様の規制が厳しくなり、徐々にトヨタの独壇場になり、日産がセドリックのタクシー仕様車の生産を止めた2014年ぐらいからクラウンコンフォートばかりになります。
このクラウンコンフォート、なぜクラウンの「冠」がついているのか不思議なのです。それはベースはマークIIだからで、ある意味、名前に偽りあり、だったのですが、2018年に製造中止となっています。そして今はトヨタが新しい形のタクシーとしてジャパンタクシーという専用車を作っています。
かつてはタクシーが庶民のちょっとしたリッチ感覚をくすぐるものでトヨタ、日産がそのブランドネームバリューで高級車をマーケティングのツールとしていたところに面白みがあります。ジャパンタクシーになった時点で「いつかはクラウン」は歴史書の一ページとなったわけです。
さて、先日のブログで北米ではテスラが高額所得者を対象に利幅の大きい高級車を販売することで高い電池コストを吸収してきたと申し上げました。一方、今年の初めにスズキの鈴木修会長がEVの軽を「命がけでつくる」と意気込んだ記事が一部で大変話題になりました。そして2月9日には同社はすべての軽を2-3年でHV化すると発表しています。このHVは簡易型と称するもので燃費改善効率は劣るけれど、導入しやすさがあるとされます。その後、同社はEVに向かっていくのでしょう。
その間、トヨタと出光が新型の小型EVを発表しました。トヨタ「シーポット」は二人乗りでフル充電で150キロ走行、家庭用電源で充電できるとされます。価格も補助金後で軽自動車並みの金額です。一方、出光のそれは遊園地の乗り物のような形ですが、4人乗り、フル充電100キロ、価格帯はトヨタと同程度となりそうです。
日本では軽自動車という市場が幅を利かせているのですが、ここにガチ勝負を挑んでくるように見えます。ただ問題は最高時速は60キロで高速道路は走れないので街乗りや地方の方の生活車となりそうです。
個人的にはこれは普及すると思います。車というより自転車感覚なのでしょう。ただ、日本で普及させるには私は行政とメーカーがどれだけ売れるだけの仕組みづくりを整えるかが勝負だと思います。
まず、100-150キロしか走れないとなれば途中で必ず充電切れを起こす人が続出します。その場合、予備バッテリーを車に携帯し、いざという時、20キロぐらい走れるような工夫をすることはマストでしょう。
次いで一般自動車と走行路の差別化も一案です。バンクーバーも含め、欧米は自転車道路が非常に進化しています。今まで2-3車線の車道を1車線分潰して自転車専用道にする流れはこの20年ぐらいずっと続いており、その総延長は伸びる一方です。これは自転車を環境や健康という面からとらえると同時に自動車との接触事故を減らすという考慮があります。もちろん、当初はドライバーからは大変不評を買ったのですが、今ではそれが当たり前に存在しています。
日本はそもそも道路幅が狭いのでこのような道路の分別使用は難しいのですが、電気自動車の優先レーンを作るなどの施策は積極的に取り入れていくべき対策だろうと思います。こんなことを意見すると反対の声が出るのだろうと思いますが、10年後を見据えると今とはまるで違う色の社会があると考えるべきで今の常識でモノを語ってはいけないのだろうと思います。それこそ、サントリーの佐治さんじゃありませんが、「やってみなはれ」の精神が大事かと思います。
同時に車は自動化が進んでくるのでしょう。とすれば自分で運転しなくても済むわけでかなり高齢の方や免許を持たない、持てない方でも「パーソナルキャリア」としての役目を果たすはずです。自動運転の最大のハードルの一つは一般車との交錯なのですからEV優先レーンが将来的に自動運転車専用レーンになればいいわけです。
とすれば日本はEVに関して独自の成長を遂げられると同時に道路事情や人口的な密度が似ている東南アジアの都市へ車とインフラ整備をパッケージで売り込むことも可能になります。
ビジネスとしてはハードの自動車の部分より周辺環境の整備と行政との一体化というソフトの部分が7割を占めるおいしいプロジェクトになるはずです。非常にダイナミックであり、成功すれば全く違う次元の規模になるでしょう。面白くて期待が持てる現実性のある夢だと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年2月17日の記事より転載させていただきました。