野菜廃棄の不思議

日本の報道でコロナにより野菜廃棄が急増していると報じられていました。何気なくこの報道を聞いていれば「そうか、コロナはこんなところにも影響しているのだな」と思うのでしょうが、私は「この報道、何かおかしくないか?」と思ったのです。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

農水省の統計によると平成29年の農産物の輸出は4966億円。ただ、その半分以上を占めるのが加工食品で野菜、果実の輸出額は366億円。その内訳は大半が果物、果汁などでいわゆる野菜で見えるアイテムはキャベツが2億円でその他が12億円となっているのでマイナーな果物と混じって野菜が若干入っているだけなのでしょう。

とすれば野菜はほぼ全ての生産量が国内消費向けとしてもよいでしょう。ではコロナでなぜ野菜を廃棄処分にしているのがおかしな話なのでしょうか?そうです、そこそも人間の数が変わらなければ胃袋の数も変わらない、つまり、消費量は一定でなければおかしいのです。ところが、農家がどんどん野菜を廃棄処分しているのです。どこにその秘密があるのでしょうか?

まず、野菜を含め、食べ物はそもそも大量廃棄処分されてきた現実があります。今回は農家が廃棄しているところにスポットが当たっていますが、平常時であれば事業者と家庭がその代わりに廃棄していたとみています。政府広報の資料によると日本の食品ロスは2550万トンでそのうち、食べられるのに捨てているのが年間612万トンあります。廃棄するには当然、燃やすために環境負担があるのですが、そのあたりはあまり触れられることはないでしょう。

612万トンの内訳は事業系が328万トン、家庭が284万トンで最大のアイテムは外食産業127万トンであります。とすればコロナで外食産業は極めて大きな打撃を受けているのでこの127万トンのロスが大きく減っている公算があり、これが農家の廃棄処分につながっていることが一つあるかと思います。

特に廃棄処分をしているのが企業との直接取引をしている契約農家ではないかとみています。飲食店などは品質が良く鮮度が高い生鮮品を安定的に供給を受けるため、契約農家と企業が直接取引しているわけですが、これが今回、仇になったとみています。

次に豊作だったことも影響しているようです。暖冬だったこと、九州などでは豪雨後に一斉に種まきして収穫時期が重なったことなども要因のようで多くの野菜で数十%の価格下落となっています。ある農家が「忘年会があれば…」とコメントをしていたのですが、それは結局、農家にとっては出荷先があっても最終的に誰かが廃棄しているともいえるのでしょう。

なぜ、これだけ野菜が余るのか、と言えば第一に人口が減っていることはあります。私はもう一つ、加工食品が若者の食生活で主流となり、野菜を摂取する量が減っているのだろうと推測しています。「栄養バランスを考えて食べましょう」というのは昔の話で今や共稼ぎで忙しい小家族が主流で外食や総菜、コンビニ弁当が当たり前。それこそキャベツや白菜を丸ごと一つ買ってもまず腐らせる人が多いでしょう。更に一人住まいの人の冷蔵庫は家のサイズも狭いのでかなり小さく、葉物野菜のように場所を取るものは「勘弁」となり、冷蔵庫に入るものは飲み物や保存がきくものといった具合でしょう。

飲食店の経営戦略はどうでしょうか?天候などにより作柄がばらつく野菜は扱いにくいはずです。かつ、飲食店では主菜とはならず、常に副菜的な様相が強い野菜は経営の安定化のためには野菜の使用量を減らす方が経営指標的にはうまく機能するはずです。

レストランで時たま、サラダバーがありますが、生野菜なんていくら食べても食べられる量は知れています。キャベツやレタスなら1-2枚ぐらいでしょう。野菜は調理すると小さくなるのでかなり食べられるのですが、生では驚くほど消費量は少ないのです。ちなみに朝から生野菜サラダを食べるのは日本ぐらいで欧米ではまず食べません。理由は生野菜は体を冷やすからで朝食には不向きとされるのです。

農家の数は2000年の312万戸から2020年の175万戸へと44%も減っています。しかし、生産性の向上があり、農水省のデータによると「物的労働生産性」は昭和35年から平成6年までの平均が4.8%もあり製造業の4.6%を上回っているのです。またこの生産性の向上は世界の先進国でもトップクラスであります。ここから見えるのは農作物が供給過剰に陥っている可能性は高いと思います。一方、気候で大きく生産高が左右されるため、一定量の供給超過は必要であり、製造業のようなジャストインタイムが難しいのも農業なのでしょう。

野菜の廃棄も奥が深い話のようです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年2月18日の記事より転載させていただきました。