五輪組織委会長の人事騒動で見た男たちの失態と退場

東京五輪組織委員会の新しい会長が橋本聖子氏(前五輪相)に決まりました。五輪開催では橋本会長、小池都知事、丸川五輪相の女性3人が主導権を発揮していくことになります。

橋本聖子氏公式サイトより

バッハIOC会長、山下JOC会長も意思決定に加わるにせよ、劇的な変化です。歴史の変化は、溜まっていたマグマがある瞬間、爆発し一気に進む。その典型的なドラマを見ている気になりました。

男女平等、多様性の尊重、意思決定の透明化(密室方式の排除)などが進み、日本社会の暗部が変わっていけば、五輪が中止になっても、騒動から得るものが大きかったということになります。

森会長(83)が女性差別の妄言で退任し、密室どころか密談で、次の会長就任を決め、川淵氏(84)も「人生最後の奉公」など、記者団に余計なことをしゃべり、軽率さから会長就任は見送りになりました。

この間、コロナ感染が拡大している中で、自粛要請を無視して銀座通い、クラブ通いをしていた男の国会議員の行動に国民は唖然としました。与党議員の1人(公明)が議員辞職、もう1人(自民)が辞職表明、3人(自民)が役職解任と離党という展開になりました。

女性のトリオが花道に躍り出る一方、国民を裏切る言動・行動で数人の男性議員らが裏舞台に下がりました。女性たちの「明」、男たちの「暗」はあまりにも好対照でした。男たちはなぜこうも軽率なのか。

女性トリオの誕生が一過性のドラマに終わらず、ジェンダー(社会的、文化的な性差別のない社会的規範)問題の解消に向かう契機になってほしい。軽率な男は退場を迫られ、能力のある女性の進出で社会が変わればいい。

橋本新会長の発言で残念に思ったことがあります。記者会見で「森さんは私にとって政治の師であり、特別な存在です」と、述べました。これは正直な本音であっても、政治的意識の遅れを証明する言葉です。

森氏は性差別に関する言動の責任を取らされた人物です。「経験と実績があり、アドバイスをもらうことがある」との発言にも失望しました。だから「森傀儡会長」と言われてしまう。

橋本氏が初当選した際も、「森さんは政治における私の父親です」と述べました。恩義を感じていたのでしょう。これに対し、森氏は「橋本さんは私の娘です」と、返しました。

裏工作、根回しを政界遊泳術とする森氏との近い距離を今後も頼りにするようでは、五輪を合理的な軌道に乗せることはできない。橋本氏はそれができそうにないから、本当は会長に選任されたくなかったのでしょう。

橋本新会長には期待が大きい一方で、「政治的中立性を保てるか」「森氏の影響を排除できるか」という悩みを抱えた門出です。

新会長の最大の課題は、「東京開催をいつ最終的に決断するのか」でしょう。裏返していえば、「いつ開催か中止かを決めるのか」です。

「日本国内の感染状況の見通しを立て、安全対策に懸念がないかの見極めをいつつけられるか」「世界の感染状況の見通しはどうなのか」「何か国が参加でき、何人の選手が入国する予定なのか」「開催可否に対するWHOの見解をいつ求めるのか」。

総合的判断の期限は3月でしょう。7月開催の期限が迫ってから、中止に追い込まれると、大混乱となる。中止を決定するなら3月までです。

最も大きな影響を持つのは米国で、米国が参加できないといってきたら、どうあがいても開催は無理です。米国との意思疎通はどこが図っているのでしょうか。テレビCM収入の見通し、各種競技団体の準備状況、バイデン政権の考え方など、組織委は米国と情報を交換しているのでしょうか。

バイデン大統領は「安全に開催できるかとうか、科学に基づき開催の判断すべきだ」と、述べています。日本側では、森前会長は「コロナがどういう形であれ、必ずやる」と、科学軽視の主張をしてきました。菅首相の「東京五輪をコロナに勝った証とする」も、願望を述べたにすぎない。

五輪は政治的中立性を保つといっても、これらの判断を組織委員会だけでできるわけはない。組織委と政府は作業部会を作り、透明性のある決断をする必要があります。そんな準備をこれまでしてきたようにも見えない。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年2月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。