目的化した大規模PCR検査断行の広島県湯崎知事に、広島市の我慢も限界だ!

椋木 太一

こんにちは、広島市議会議員(安佐南区、自由民主党)・むくぎ太一(椋木太一)です。

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広島県による「大規模PCR検査」は、広島市中区の一部地域住民らを対象に「試行」するという建前で2月19日から3日間の日程で始まりました。(参考:広島大規模PCR検査「試行」の目的は?今こそ勇気ある撤退を!

ところが、広島県は開始初日となる19日午前、同日正午から対象地域を広島市中区の全域に拡大すると明らかにしたのです。

検査が開始してしばらくしての突如の方針変更発表で、このことをネットニュースで見た時、私は我が目を疑いました。

端的に申しますと、当てが外れたので間口を広げたということです。受ける人数が少なすぎてメンツが保てないので増やすため全域にしたとも言えるでしょう。対象エリア拡大について、広島県は「検査能力に余力があるため」と説明しているということです。

広島県は、広島市中区の一部地域の住民約2万5000人のうち、「試行」の3日間で6000人が受検すると見込んでいました。ところが、報道によりますと、予約は1500人にとどまっていたということです。そこで、急遽の大盤振る舞いとなったわけです。

今回の件について、様々な論点があると思います。ツッコミどころがあまりにも多すぎて、挙げればきりがありません。ここでは、2つの問題点を指摘したいと思います。

まず、PCR検査実施が目的化していることです。広島県が1月14日に「大規模PCR検査」の方針を明らかにした時の目的は、「無症状者を早期に捕捉し、感染拡大を抑え込む」ことと説明していました。さらに、「大規模PCR検査がその唯一の手段」と強調していました。この時点では、目的と手段がきちんとしていたようです。そもそも、「無症状者への大規模PCR検査で感染拡大を抑え込む」こと自体が、目的と手段の方向性を誤っていると何度も指摘させていただいていますが・・・。(参考:広島が大規模PCR検査実施へ:”世田谷モデル”の失敗を繰り返してしまうのか

話を戻しまして、その後、広島市の陽性判明者数が一桁台に落ち着くなど、感染状況が改善したことや大規模PCR検査そのものへの疑義が高まっていたこともあり、広島市中区の一部地域住民らへの「試行」という形に変わりました。このあたりが、大規模PCR検査をやめるべきタイミングだったのですが、逆に、この頃から、PCR検査を実施すること自体が目的になりつつあったと思います。そして、2月19日、今度は対象エリアを拡大するという再度の方針転換です。これは、PCR検査が目的になったという証左であり、本末転倒の一言に尽きます。

医療資源や費用を含めて、あらゆる資源は有限です。仮に、一般企業でこのような事業判断を繰り返していては、その企業は社会的信用を失い、ひいては倒産という憂き目に遭うことでしょう。幸い、広島県は自治体ですので潰れることはほぼないですが、広島県への信頼は揺らぎ、住民への負担は増えることは間違いありません。

2点目は、広島県が広島市に対して、あまりにもずさんな対応をしているということです。

広島県から対象エリアを拡大するとの連絡は19日午前10時前に入っています。この日は午前10時から広島市議会2月定例会の本会議が開催されており、松井一実・広島市長や新型コロナウイルス感染症対策の担当者も出席していました。つまり、対象エリア拡大という重要事項の一報をもらった以降、広島市幹部は身動きが取れない状態にあったのです。牛前の本会議は午後0時15分頃に終わりましたので、その時にはすでに対象エリアは拡大していたのです。

感染症対策において、感染者や濃厚接触者らへの対応は、広島市が管轄する保健所や広島市当局に委ねられます。上述のように、広島市の関与がままならない状態で突如、対象エリアが急拡大するということは陽性判明者が増える確率が高まるということを意味しますので、言い換えれば、医療体制への負荷が一気に高まる危険性、社会的インフラ等に混乱をきたすリスクが高まる恐れが生じるということになります。情報が乏しい中、市長以下、幹部クラスが身動き取れない状態に置かれることは、危機管理の面から考えますと、大変、由々しき事態となります。

以上のことから、医療や行政、学校、経済など様々な「現場」を抱える広島市をこれ以上、振り回すのはやめていただきたいと申し上げたいのです。検査をすることが目的なのであれば、検査から陽性判明者や濃厚接触者らの健康観察まで一連の作業をすべて広島県が責任を負うというのであればまだしも、法令上、現実には不可能です。広島市、広島県の現場も含めて、撤退すべき時期にあるということは誰しも分かっています。引くに引けない、振り上げた拳の行き場を求めてさまようような組織に待ち受ける将来は、決して明るいものではありません。

感染症対策において、広島市の法令上の立ち位置は、広島県の施策を実行する”部隊”にすぎません。そのため、政令指定都市といえども、いかんともしがたい状態となっています。ただ、感染症対策は広島市民の生命・財産に直結します。今回のような広島県の迷走の結果、最も実害を被るのは、広島市民の皆様ということなるのです。これまで、広島市は広島県の独断専行にじっと耐えてきました。堪忍袋の緒が切れたのは私だけではないはずです。だからこそ、120万人の広島市民を守るため、政令指定都市としての誇りをかけて忠告しているのです。