「収入が増えると、所有するモノが減る」3つの合理的な理由

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

Fugacar/iStock

「お金持ちの家はモノが少ない」という話はよく聞く。昔はこの手の話はかなり懐疑的に感じていた。だが、裕福な家を見せてもらう機会がある度、本当に判を押したように所有物が少ないことが分かる。

お断りをしておくが、筆者自身は決して大富豪などではない。だが、かつて経済的に困窮していた状態から、苦心惨憺したものの、ビジネスオーナーに転身したことで収入は会社員時代の10倍以上になった。

この経済力が変化は、思考にも大きな影響を与えた。そして今では「収入が増えると、所有物が減る」についての実感をもたらしてくれたと感じる。今回は「収入増と所有物減の関係性」について3つの理由を論考する。

下記はすべて傾向と個人的体験に基づく見解であり、すべての事例にアプライできる法則などを述べているわけではないことをお断りしておく。

「価格」ではなく「価値」重視の買い物へ

昔、お金がない時期は「価値=低コスト」と信じ切っていた。100円という価格が付けられて然るべきものが、50円なら「安い!→価値が高いから買う」という思考プロセスを経ていた。閉店前の時間にスーパーへ足繁く通い、半額シール付きの商品を買い漁るのは、日常的な行動だった。

だが、価格を購買基準に置くとかえってムダが生じる。本音ではただ安いだけの商品は心からほしいと思っていないために、少しお金が貯まると「本当に買いたかった商品」を改めて買ってしまうムダな買い物が発生する。安いからという理由だけで買ったスマホだが、使ううちに不満が貯まり、思い切って最初から欲しかった高額なスマホを買い直すことをしている人もいるだろう。

だが、収入が増えると購買時の物の選定基準は「価格」ではなく「価値」重視になるのだ。最初から自分の欲求に従った買い物をするから、精神的に充足することで、購入後にあれこれと買い直したいと思わなくなる。結果として所有物が減るのだ。

モノは空間を圧迫する

モノを置くスペースには、お金がかかる。これは収入が増えて単位面積当たりの高い家に住むほど、強く意識することだろう。

たとえば、50平方米で家賃10万円を支払う場合、1畳=1.62平方米で計算する場合は、10畳の部屋は毎月3万円のコストを必要とする。足の踏み場もないような、モノがゴチャゴチャする家では、モノが空間を専有するコストはとてつもないものになるだろう。

使わないソファやマッサージ機、常にモノが置きっぱなしのテーブルなどはひたすら空間の専有コストを垂れ流けることになる。どうしてもモノを捨てられず、わざわざ貸し倉庫サービスまで利用することまでしている人もいる。

収入が増えて良い家に住むと、単位面積コストが高まる。それ故に、ますます余分なモノを置く気になれなくなる。収入が高く、高い家に住んでいる人ほど所有物を減らしたがるのは、合理的な理由のためだ。

モノが多いと決断疲れを招く

シンプルにモノが増えると、マインドシェアを奪い取り、それが決断疲れを招く。

探しものをしている時に、懐かしいアルバムが出てくれば、どれだけ忙しくても開いて中身を見たくなる誘惑と戦うことになる。また、仕事やタスクに疲れた時にふと目の前にゲーム機があれば「少し気晴らしに…」と手を伸ばす時に、克己心と誘惑の間に身を置いていることに気づくだろう。

人は一日の中で膨大な分量の「決断」をしている。あまりに多すぎる決断をすることで、「決断疲れ」と呼ばれる精神的疲労に陥ることが知られている。ニューヨーク・タイムズの記事でも、決断疲れ(decision fatigue)について次のように紹介されている。

“No matter how rational and high-minded you try to be, you can’t make decision after decision without paying a biological price. It’s different from ordinary physical fatigue — you’re not consciously aware of being tired — but you’re low on mental energy.

どれだけ理性的で頭脳明晰な人であろうと、生物学的な代償を払わずに次から次へと決断を下すことなどできない。通常の肉体的疲労とは違い、疲れていることを意識していないのに、精神的なエネルギーが低下している。

引用元:New York Times「Do You Suffer From Decision Fatigue?

決断疲れを回避するためには、意識的に決断の機会を減らしていくことが重要だ。所有するモノを減らすことは、決断疲れ回避につながるのだ。

ビジネスや投資で成功して結果を出すような人物は、本質的価値を追求し、合理的思考プロセスを経て行動を出力する属性の持ち主だ。日々の服装も、おしゃれを楽しむより「決定疲れ回避」を重視する人もいるだろう。決定疲れ回避のために、あらかじめ着る服を決めておく、同じ服を何着も買っておくといった有名IT経営者や、アインシュタインの事例などはよく知られている話だ。

モノを買うのは「必要性」が生じた時だけ

購買においては「買うタイミング」も極めて重要だと考える。安い時ではなく、買い時は常に「必要な時」である。そもそも、店舗の商品棚に並べられている商品は、所有権は店舗にあるがお金があれば、買おうと思えばいつでも買える。この「その気になれば手に入る」という精神的余裕が、所有権を自身に移転させることの執着から開放してくれる。必要以上のモノを買う合理的理由は存在しないのだ。必要ならば、その時に買えばいいのだから。

また、基本的にモノの性能やサイズはテクノロジーの進化の恩恵を受ける。たとえばスマホについていえば、次々と性能が良い最新機種が出ている(製造時の情勢によってはそうでない場合もある)。それ故に、「必要性」を感じた時以外は、店舗の商品棚に置いたままで良いのだ。人気機種の値下げがあって喜び勇んで購入したものの、その後により高機能な新機種が発売され、地団駄を踏むということは起こりがちだ(型落ち品を賢く買ったという発想もありかもしれないが)。そう考えると、購買においてはやはり「必要性」を感じた時以外に、購入する必要はないのだ。

収入が増えると、所有物は減る。昔はわからなかったが、今では腑に落ちた概念の1つである。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。