「カタルーニャ独立派とスペイン国家権力との闘い」への反論 --- 安田多喜生

先月2月20日に投稿された「カタルーニャ独立派とスペイン国家権力との闘い 」について、日本の読者からすれば一見中立的な立場からの意見に見えるかも知れないが、長年スペインに在住しカタルーニャ問題に疎くない日本人としては、明らかに独立派あるいはその擁護者がいかにもスペイン政府がカタルーニャの独立を弾圧しているような印象操作をしようとしている記事であることが分かる。突っ込み所が多いがこれだけは見過ごせない主なものを次に挙げる。

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1) カタルーニャ政治犯という記述。独立派であったカタルーニャ州政府が自治州定款を蔑ろにするだけでなく憲法裁判所が下した中止裁定をも無視して住民投票を行い、挙げ句は殆ど独立派の市民しか投票しなかった違法投票結果をもって一方的独立宣言をしたことにより、関与した州政府高官が謀反罪の有罪判決を受けた。民主主義国家で定められた法律を破って罰せられた者を政治犯と呼ぶには無理がある。

スペインは民主主義指数ランキングで北欧諸国、ドイツ、オーストリアと並ぶ「完全な民主主義」国であり、独立思想を持つ者を迫害することはない。投稿者が恥じらいもなく政治犯という言葉を使うのは、スペイン政府は迫害者、カタルーニャは被害者というイメージを植え付けようとする意思が丸見えだ。

独立派がそれでも政治犯だと言うのは表現の自由が保証されているので勝手にやって下さいと言える。しかし、総選挙中に州政府本部の建物に「政治犯」の投獄を抗議する横断幕を垂らすことは、カタルーニャ州民全員を代表する州政府が独立派だけの思想に肩入れすることを意味し、選挙プロセスの透明性と中立性から逸脱するため、選挙管理委員会が横断幕を下ろすように命じたのは当然のことだ。過激独立派のトラ自治州首相が命令を無視したため最高裁で不服従の罪で有罪となり1年半の公職追放となった。表現の自由を持ち出して違法行為を正当化するやり方は独立派の常套手段だ。

2) 亡命中のカタルーニャ政治家。これも独立派が好んで使う言葉だ。政治的思想によって迫害されているなら受け入れ国に亡命申請しているだろう。しかし、実際は一般の犯罪者と同様、司法の追及を逃れるために他国に逃げただけなのだ。EU逮捕引渡要請という制度があっても刑法典の規範が当事国同士で異なり、それぞれの国で裁判官の刑罰解釈も変わるため、実際にEU逮捕状を出しても相手国が引き渡しに応じることは少ない。スペインでは公正な裁判が保障されないとの理由でベルギー、ドイツの裁判所が却下したというのは全くの嘘である。

3) 投稿者はさらにスペイン国王への反抗歌に言及し、スペインがいかに表現の自由を弾圧しているかを説得しようとしている。しかし内容を掘り下げると、表現の自由というよりヘイトスピーチ、テロを高揚している扇動者なのだ。裁判所が王室、官公庁への侮辱罪を裁定したのは、極左、カタルーニャ独立派以外の国民の大半が納得する判決だ。

4) 「スペイン国家とEUは、民主的な住民投票に表現されるカタルーニャ社会の自己決定権を否定することはできない」という投稿者の意見。国連憲章で認められている民族自決権を行使するためには、植民地であること、該当民族が国レベル(国会)及び地方レベル(州議会)で代表者がいない、独裁政治を敷いているなどの条件を満たさなければならない。

カタルーニャはいずれにも当てはまらない。民族自決権を憲法に取り入れれば可能であるが、そんなことをしている国は殆ど皆無。仮にカタルーニャが独立した場合、もしバルセロナ市民がカタルーニャから独立したいと言っても自決権を許さないないだろう。これは今の独立派自身が認めていることである。

また、直近の州議会選挙の結果をもってカタルーニャ市民の大多数があたかも独立を願っているかのように印象操作をしている。しかし、州政府世論リサーチセンターや主力地方紙が行った直近の世論調査によると、独立を支持しているのはカタルーニャ人の43%なのに対して50%が独立に反対している。この事実を語らないのは何故なのか。

最後に、カタルーニャの問題は、フランコ独裁政権から民主主義制度に移行して以来、今日に至るまでほぼ一貫してカタルーニャナショナリズムを追求する政党が州の政権を担って自民族中心主義を推し進め、反スペイン、嫌スペインを吹込み、スペイン語排除の公用語政策を行ってきたことや、2008年の金融危機で州政府が凄まじい医療、教育などの社会的費用の削減を行って噴出した社会の不満をスペイン政府に振り向けたたことにより、元々少数派だった独立派がカタルーニャ人の半数近くまで増え、2017年の一方的独立宣言に至った時にはカタルーニャ社会は独立派と反独立派に2分極化されてしまったことだ。もうどちらも相手に聞く耳を持たなくなってしまった。世界を見渡すと、ブレクシットしかり、米国大統領選しかり、韓国反日しかり、ナショナリズム、ポピュリズムの弊害を痛切に感じる。

安田 多喜生 スペイン在住39年。2018年から年金生活。