児童虐待死に殺人罪を適用しない司法の怠慢

5歳児が餓死する事件に思う

新聞記事やテレビニュースから目を背けたくなる児童虐待死が、また発覚しました。十分に食事を与えず、体重は平均の半分、重度の低栄養状態でした。最後の10日間は水しか与えられなかったそうです。福岡県で昨年4月に起きた餓死事件です。

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虐待死を事件として報道していても、児童虐待死を減らせません。すそ野の広い対応が必要です。私は1市民として、虐待死を何度か取り上げてきました。その一つが司法の限界と怠慢です。

結論を申し上げると、「保護者が無抵抗の子供に虐待を続けることには殺意があると判断すべきだ」「法改正して、現在の保護責任者責任遺棄致死罪に遺棄殺人罪を加える」「殺人事件として、厳罰を加えるようにする」です。そういう声が上がっているのに、司法は腰を上げようとはしません。

今回の事件を要約します。容疑者は母親(39)と知人の女性(48)で、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕されました。餓死したのは三男といいますから、5人でマンションに同居していたのでしょう。月20万円程度の生活保護を受けていました。

知人女性は室内に監視カメラを設置し、食事制限の様子を監視するふりをしていたらしい。餓死した三男の名前は翔士郎ちゃんで、生まれた時は「大空を大きく羽ばたくような元気な子に育って」という願いが込められていたのでしょう。こんな殺され方をするとは思ってもみなかった。

知人女性は金銭管理までしており、2人は幼稚園の「ママ友」として知り合ったそうです。母親は離婚し、その後、知人女性が家庭に入り込んだのでしょうか。人間関係は複雑です。地元の児童相談所、警察は19年ころから支援対象にしていたのに、結局、幼い命を救えませんでした。

同じような事件を何度、見せつけられてきたでしょうか。虐待の疑いがあるとして、警察が児童相談所に通告した子供(18歳未満)は昨年10万7000人で、前年比9%増でした。統計開始以来、初めて10万人を超え、5年間で倍増です。急カーブの増加です。

「家族の社会的孤立」「経済的貧困」「親の精神的な不安定さ」などが背景にある一方で、「子供が自らSOSを出せず、虐待が潜在化している可能性がある」といいますから、すそ野が恐ろしく広い社会問題です。安倍政権の「希望出生率1・8達成」で目指した社会はどこへ行ってしまったのか。

先進国全体の出生数が減る中で、日本の少子化は特に深刻です。コロナ禍で結婚・出産が先送りになり、20年の出生数は85万人、21年は70万人台まで減るだろうとのことです。幼い命をますます大切にしなければならないのに、児童虐待は増え続けているのです。

多くの社会的背景、原因がある中で、一つの対策は「親の保護を信じ、かつ無抵抗の幼児、児童に虐待を続ければ、死が不可避であることが分からないはずない」「結果として死んだのではなく、保護者に殺意・故意があって殺したと考え、保護責任者遺棄致死より重い遺棄殺人罪を設ける」です。

現在の遺棄致死罪では、処罰は「3年以上、20年以下の懲役」です。刑法の「故意による殺人罪」の罰則は「死刑、無期、5年以上の懲役」より軽い。児童虐待死の場合も、「故意による殺人」であると判断されることも少なくありませんから、罰則が重い殺人罪を設け、厳しく処罰すべきでしょう。

国際比較すると、欧米では、親の殺意を認定し、殺人罪を適用することが多いそうです。日本では、殺意の存在を裁判で争うことを避ける傾向がある。「遺棄致死で起訴されたら裁判で殺意に関する審理はできない。殺人罪を問えない」との弁護士の解説を聞きます。法改正を望みます。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2021年3月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。