米中衝突は不可避か、台湾をめぐる二つの見解

鎌田 慈央

歴史は終わったのか?

今回の記事を書こうと思ったのは友人のある一言が理由だった。

「俺も乱世の時代に生まれたかった。」

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その一言は戦国時代や幕末のように社会が大変革する時代に生きたいと思う心理が彼にあり、それと同時に時が止まったかのような現在に対する彼の物足りなさを吐露したものであると筆者は考えた。

確かに、筆者の友人が憧れた時代と比べると、大きな歴史的な出来事が近日中には起きないのではないかと考えるのは不思議ではないと思う。新型コロナウィルスは日本人一人一人の生活スタイルを大きく変えた。一方で、コロナ禍においても自民一強の政治体制は維持されたままであり、野党が総じて弱いために緊張感に欠けている自民党も憲法改正などといった歴史に残るようなことをしようとする気概が見られない。

また、日本の外を見ても、第二次世界大戦に匹敵するような大規模紛争はここ70年間起こっておらず、近代史の中で一番安定した時代を私たちは生きているといえるのかもしれない。それらのことが影響し、漸進的に社会は変わっているものの、大きな出来事が無いため、社会そのものが固定化されたままであると錯覚してしまう人が出てくるのかもしれない。

しかし、筆者は友人とは違う見解を持っている。なぜなら、米中間で今もなお未解決な問題である「台湾問題」が国際政治の現状を大きく変える、ゲームチェンジャーになりうるからである。

台湾はなぜ中国のものか?

結論から言うと「台湾問題」が’ゲームチェンジャーになる理由はその問題が紛争の火ぶたをきってしまう恐れが十分にあるからである。そして、台湾をめぐって超大国同士がぶつかれば、大規模紛争が起こってしまう可能性があるし、そうなれば日本を含めた近隣諸国の人々の生活が変わるどころの話ではなくなる。

また、そうなってしまうのではないかと筆者が考える理由はアメリカと中国が持つ、「台湾問題」に対する根本的に違う見解が関係している。

まず、はじめに中国の見解を紹介したい。中国は台湾を自らの一部だと自認しており、多くの人はそれを頭ごなしに否定するが、歴史的観点から中国の主張を見た時にその主張に論理性は存在する。

まず、台湾と呼ばれる島は日清戦争の結果、日本に割譲されるまでは歴史的には中国の領土であり、日本の植民地支配を清算する過程で中国に返還されるべきだった。しかし、台湾の帰属を複雑にする事態が戦後に起こった。内戦である。

大日本帝国が崩壊すると同時に中国国内は国民党と共産党に分裂し、内戦を引き起こし、劣勢になった蒋介石を首班とする国民党は台湾に逃れた。そして、中国の大部分を制し、国民党政府の腐敗に辟易していた国民の支持を得た共産党政府はそのまま台湾に逃れた、国民党の残党を配下に収め中国の統一を果たすはずだった。

しかし、アメリカの存在がその計画を邪魔した。朝鮮戦争が勃発した際、共産主義が持つ好戦的な性格、それがもたらす共産主義のドミノ現象を危惧したアメリカは台湾に拠点を構えた国民党政府を守るために軍艦を派遣し、軍事同盟を結んだ。共産党が容易に台湾に侵攻することを阻止し、新たな世界大戦の芽をつむことがアメリカの意図であった。その結果、今につながる台湾問題が生まれた。

だが、中国としてはアメリカの存在がうっとうしくて仕方がない。なぜなら、中国の観点からすればアメリカが中国の内政問題である内戦を無理やり中断させ、歴史的に見て中国の領土である台湾を領有をすることを妨げているからだ。

アメリカは台湾を見捨てることができない

しかし、いくら中国の歴史認識が正しかったとしても、アメリカが台湾を見捨てることができない理由が存在する。ひとつはアメリカが同盟国に提供する抑止の信頼性を確保するためである。アメリカは世界各国に同盟のネットワークを築いており、現状変更を望む国々に対し、あらゆるところで監視の目を向けることができる。それに加えて、アメリカが与える安心感のおかげで、同盟国は軍備増強に意識を向ける必要がなくなった。アメリカの抑止に信憑性があるおかげで、敵対する国だけではなく、同盟国が戦争を引き起こす潜在的なリスクが抑えられてきたのである。

一方で、もしアメリカが台湾を見捨て、アメリカが提供する抑止に疑いの目が向けられたらどうなるか?敵対する国々はリスクを恐れずに侵略、略奪行為を行い、同盟国は自国を自力で守るべく、アメリカの抑止を代替するための大規模な軍拡を行うであろう。そして、同盟国の軍拡に応じて、優位に立つために敵国もさらなる軍拡を行う。その結果、際限の無い軍拡競争が引きこされ、一度紛争が起これば取返しのつかない事態に発展してしまう。

それらのリスクを考えるとアメリカは台湾を簡単には見放すことができないのである。中国の視点から見た台湾問題は主権の問題だが、アメリカの視点から見たそれは世界平和にかかわる問題なのである。

だが、このように相反した見解を持ちながら、台湾をめぐる米中間の紛争は今まで起きなかったものの、アメリカの影響力が低下したせいで、蓋をされ続けた問題に再び注目を集まっている。

崩れるパワーバランス

台湾をめぐる紛争が起こらなかったのはアメリカの軍事力を前に中国が圧倒されて、台湾を取り戻すという選択肢が合理的なものでは無かったからである。しかし、それはもはや過去の話になったのかもしれない。

未だに圧倒的な軍事力を保持しているものの、アメリカは社会の分断などが災いして内向き化をすすめており、できれば新たな戦争に極力関わりたくない。また、そのアメリカの態度は台湾問題の解決、すなわち台湾統一を望む中国に機会の窓を提供している。

また、中国政府関係者からの好戦的な発言、米軍の無力化を目指したA2AD戦略の実施によって中国が台湾統一を真剣に考えていると思わざるを得ない。

仮にアメリカの抑止がブラフに過ぎないと確信した中国が台湾統一を実行に移して、アメリカが何もしなければ、世界規模の軍拡を引き起こしかねず、対抗措置を取れば日本を含めた近隣諸国に深刻な影響が及ぼされる。特に日本のエネルギー資源の多くが台湾付近の海域を通っていることを考えると、どちらの結果も日本に壊滅的な事態をもたらす。

そして、そのような仮のシナリオを立てること自体が非現実的ではなくなっていることが今日の台湾問題の重要性をあらわしている。

指導者の思惑、偶然の積み重なりによって台湾問題をめぐる二つの見解が衝突すれば、明日から乱世の時代になりかねないのである。