パピローマウイルス由来抗原を標的にしたT細胞受容体導入T細胞療法

多くの人の予想通り、1都3府県の緊急事態宣言が継続となった。それにしても、2週間とは何とも言えない中途半端な期間だ。1か月が、2月には1か月延長となり、さらに3月になって2週間。もっとも精神的に負担が大きくなる方法である。中途半端に解除すれば、リバウンドと再度の緊急事態宣言は早く来る。これでは終わりが見えない。

luismmolina/iStock

たまには希望のあるブログが必要なので、先月の話題となるが、Nature Medicine誌2月号に発表された「TCR-engineered T cells targeting E7 for patients with metastatic HPV-associated epithelial cancers」の内容を紹介したい。このブログでも紹介したT細胞受容体遺伝子を導入したT細胞を用いて、パピローマウイルス感染と関連するがんを治療した結果である。

HLAと結合してがん細胞の表面にがん特異的抗原として現れる、パピローマウイルスのE7タンパクの一部を認識するT細胞受容体遺伝子を、患者由来のリンパ球に導入して、それを注射して利用したものである。パピローマウイルスは子宮頸がんや頭頚部がんの原因となっていることが知られている。子宮頸がん予防ワクチンとして利用されているのも、このパピローマウイルス由来タンパクを利用している。

対象となった子宮頸がん、頭頚部がん、肛門がんなどの12名の、がん細胞にパピローマウイルスの感染が確認されている患者さんだ。注射した細胞数は、10億個から1000億個とCAR-T細胞よりもかなり多い。人の全身の細胞は60兆個(37兆個という説もある)であるので、1000億細胞の注射というのは体重60㎏で換算すると約100グラム分の細胞となる。

一人の患者は有害事象で亡くなっているので臨床的な効果は評価されていないが、評価を受けた11人の患者のうち6名は明らかな腫瘍縮小効果が認められていた。1名は完全に腫瘍が消滅したと報告されていた。効果がなかった患者では、腫瘍細胞における遺伝子異常によって、E7由来の抗原を提示するシステムが消失していた。がんは強かなので、治療法がなくなってから免疫療法をという考えは非科学的である。

最新のScience誌には「Targeting a neoantigen derived from a common TP53 mutation」というタイトルの論文が発表されている。P53遺伝子異常に由来するネオアンチゲンを標的とした治療法の開発戦略だ。このような患者さんが希望を持って生きることができるような研究開発戦略が必要だ。10年前の欧米の知識で戦略を考えていては日本の再浮上は難しい。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年3月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。