コロナが終わるのはコロナ脳の終わるとき

池田 信夫

分科会の尾身会長(NHKより)

政府のコロナ分科会の尾身茂会長が国会で「今年の12月ごろまでに全人口の6割から7割がワクチンを接種したとしても、時々はクラスター感染が起こりえるし、時には重症者も出る」と答弁したことが話題になっているが、私はこの状況認識は正しいと思う。

緊急事態宣言の「再延長は適切だ」と述べたことが批判されているが、これは政府の緊急事態宣言再延長を受けての話なので、彼の立場としてはやむをえない。それより大事なのは「コロナを抑え込んで根絶する」というゼロコロナ路線を否定し、一定の感染を容認するウィズコロナ路線を明確にしたことだ。

今年の冬からさらに1年ほどがたてば、このウイルスに対する不安感や恐怖心が、だんだんと季節性インフルエンザのような形になっていくと考えている。多くの人がインフルエンザと同じような気持ちを持ったときがいわば終息のような感じになるのではないか。

というのはなかなか含蓄のある言葉だ。これ以上無理な抑え込みはしないで、ゆるやかに自粛していれば、夏には収まる。今年の冬にはまた出てくるかもしれないが、その代わりに季節性インフルが流行しなければ、トータルでは平年並みだろう。

コロナの最大のダメージは恐怖

ポイントは「インフルエンザと同じような気持ち」である。次の図のように、平年の季節性インフルはピーク時には毎週200万人以上が感染し、毎年3000~1万人が死亡するが、人々はあまり気にしていない。インフルのワクチン接種率は50%程度である。

インフルエンザ患者数(国立感染症研究所)

それはインフルが恐い病気ではないからではなく、政府が特別扱しないからだ。だからコロナが終わるのは、コロナ感染者がゼロになるときではなく、コロナ脳が消えるときなのだ。そのためには国民全員をPCR検査して隔離するなどというバカげたコストをかける必要はない。日本の抗体保有率は1%以下なので、それは膨大な医療資源の浪費になるだけだ。

感染症の最大のダメージは(感染しない人の)恐怖だから、ウイルスをゼロにすることはできないが、恐怖をゼロにすることはできる。マスコミが騒ぐのをやめればいいのだ。そのためにはまず政府がコロナをインフルと同じ5類感染症に分類し、「インフルと同じ普通の感染症だ」という必要がある。2009年の新型インフルも、政府がそう発表すると騒ぎは終わった。

「コロナは新型インフルより悪性の風邪だからコロナと同じ扱いにはできない」という医師も多いが、日本では大した違いはない。それよりコロナの特別扱いが人々の恐怖をかきたて、社会に与えるダメージのほうがはるかに大きい。経済的被害の原因も感染ではなく、人々の萎縮である。

だから政府が「もう自粛しなくても大丈夫だ」と発表し、人々が安心することがコロナの収束する必要十分条件である。それは今すぐでも可能だが、ワクチンなどがそろってマスコミがおとなしくなるには、尾身氏のいうようにまだ1年ぐらいかかるかもしれない。