イタリア政界は安定するか:ドラギ政権誕生でレンツィ元首相が失速

2月に入ってイタリアでは欧州中央銀行(ECB)前総裁のマリオ・ドラギが首相に就任してイタリアの政治危機の収拾に着手した。この危機を仕掛け、またドラギ政権でも影響力を発揮しようとしたマテオ・レンツィ元首相の野望は大きく挫けた。

レンツィ元首相(本人ツイッターより)

コンテ前首相を辞任に追い込み、常にイタリア政界の中心的存在でなければ満足しないマテオ・レンツィは46歳という政治家としてはまだ若い。だが、これまでフィレンツェの市長、そしてイタリアの首相を経験した人物だ。

レンツィは民主党内での自分の影響力が薄らいだものになっていると判断して2019年9月に政党イタリア・ビバを創設した。そしてコンテ前首相の政権にも彼の政党から3議員を入閣させた。ところが、EUから提供される復興資金2090億ユーロ(25兆円)の使い道について議会を無視した政策を展開しようとしているとしてコンテ前首相を批判した。その上で、彼の政党の3人の閣僚を辞任させて政治危機を招いた。

レンツィの狙いはコンテ前首相を辞任させること以外何ものでもなかった。そして、彼は視点をドラギECB前総裁に向けた。ドラギの方がコンテよりも今のイタリア政界をまとめるには有力者だと指摘した上で、「我々の息子や孫にとってドラギは将来を保証する人物だ」と賛辞した。

彼の政党は弱小であるが故に政治的な影響力はない。だからドラギに胡麻をすって彼を崇める評価を下した。組閣の際にコンテ前首相の政権時と同様に最低でもレンツィの政党から3人の議員を入閣させようと狙ったようだ。

しかし、ドラギはECB総裁を歴任したという自信から、レンツィに特別な支援を受ける必要はないと感じたようだ。寧ろイタリアの右派と左派と幅広い政党からの支持を集めることを望んだ。だからイタリアの6政党の議員を閣僚に選んだ。しかも、政党の党首の入閣は避けた。閣僚間でより円滑な関係を維持するためである。党首が閣僚になると党の面子なども影響して内閣のバランスが崩れることをドラギは敬遠したのである。

ということで、イタリア・ビバから入閣したのはエレナ・ボネティひとりだけだった。担当は機会均等と家族省ということで、内閣の中では殆ど影響力のないポストだ。レンツィは農業相だったテレサ・ベラノバの入閣も望んでいたが、希望は叶えられなかった。

レンツィの企みは見事失敗した。コンテ前首相の時の方がレンツィの影響力は遥かに上だった。これも危機のなかったところにレンツィが危機を発生させたのが裏目に出たということだ。

何れはまた首相に返り咲くことを望んでいるレンツィにとってその道のりは逆に遠のいた感じだ。

2011年から2年間政権を担った経済学者のモンティと比較して、ドラギの方が経験はより豊かである。しかも前者は歳出を削減させることが主要な任務であったが、今回のドラギは2090億ユーロという資金をどのように使うかというのが仕事で、その意味ではモンティの政権時とは立場が全く異なる。

この重責をうまくこなすべくドラギは財務・経済相には彼が全幅の信頼を寄せているイタリア銀行のゼネラルマネジャーのダニエレ・フランコを起用した。

ドラギが上手く政権を担うことが出来た暁にはイタリア大統領に就任するという道が開けるのは確実である。また、ドラギがイタリアの首相になったことで、EU内におけるイタリアの重みが増すことになる。メルケル独首相は今年退任することになっている。フランスは来年が大統領選挙でマクロン大統領は内政で多忙になる。その隙間を縫ってドラギ首相がEU内で中心的存在になる可能性もある。

ドラギの組閣にはイタリアで非常に珍しく、それを発表するおよそ10分前まで誰も知らなかったとされている。これまではいつも事前に閣僚メンバーの内容が明らかにされているというのが通常であった。

6政党が閣僚のメンバーに加わった。五つ星(4人が入閣)、民主党(3人)、同盟(3人)、フォルサ・イタリア(3人)、イタリア・ビバ(1人)、自由と同等(1人)の6政党、15閣僚が政党から選ばれた。そして8人は実務家が入閣した。

野党に回ったのはイタリア同胞である。

スペイン電子紙『El Independiente』(2月21日付)によると、各政党の現在の支持率は同盟23.5%、民主党20.5%、イタリア同胞16%、五つ星15.5%、フォルサ・イタリア7%、イタリア・ビバ2.5%となっている。同盟への支持率は依然高い。

仮に総選挙となれば現状ではイタリア・ビバは議会から消滅する可能性がある。ドラギ政権が続く間にも、レンツィは人気回復を図る必要に迫られている。