二極化とその行方

二極化と言えば所得水準の差が代名詞だったと思います。しかし、ここにきてあらゆる点で二極化が進捗してきているように思えます。好調なもの、不調なものが明白になってきていないでしょうか?

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産業界を見ると想定以上に回復力を見せたのが自動車業界でした。なぜ、自動車なのか、といえば公共交通機関ではなく自分の空間を維持しやすいという背景があるのと消費者の潜在的消費余力が上がっているため、高額なモノへの出費がしやすくなっていることが挙げられます。コロナ初期には自転車がバカ売れしたこともあります。また、最近では億ションなど高額マンションが売れているという統計もありますが、これも余力があるからだとみています。

ところでなぜ億ションが売れるのかと言えば都心のそれなりに利便性がよく、住所が世間一般に知られているところになると戸建てが買えないからであります。そもそも戸建て用地が一等地には少ないこともあります。(注:私の定義では東京の一等地とは山手線内の特定エリアか山手線から歩ける距離でとても狭いです。かつて流行った世田谷なんてまったく眼中にないです。)建売業者や開発業者も注文住宅でもない限り億の金額が付くような戸建て物件は開発しません。

そうなると今や一億円出しても戸建てになると人気地区で駅から徒歩5分以内でそれなりに見栄えがする物件はほとんどないと思います。言い換えれば一億円あっても小金持ちの範疇で人気エリアのマンションしか買えないとも言えるのです。

また、物流が異常に増えたことからも見て取れるように自宅からネット注文するモノ消費が進んだことも二極化の一つでしょう。サービス産業があえいだのも今回の特徴でした。飲食、宿泊、旅行などは全部サービス産業。もっと言えば結婚式場やイベント関連事業者もすっかり落ち込み、厳しい状況が続きます。飲食店はサービスをモノに転換し、宅配をしたのが功を奏しました。ホテル業界は非日常を体験するパッケージを売るなどの努力が足りないと思います。

今はまだ、コロナで様々な行動制限があり、人々のマインドに深く植え付けた感染症への恐怖感があるものの、これは徐々に取れていくはずでモノ消費からサービス消費へのシフトで7-8割は戻ると思っています。戻らない部分は時代の変化と捉えています。とすればこの数割の減少幅は打撃を受けた業種の淘汰を促す可能性は否定できないかもしれません。

人の行動規範はどうでしょうか?まず、仕事の在り方としてオンライン化を進める企業が増えているのですが、その中で更に踏み込んだのが本社移転組であります。人材派遣のパソナグループが東京から淡路島に本社移転を決めたのが話題になりました。しかし、これが本社の地方移転を推し進めたかと言えばそれはややポジショントーク的で統計上、首都圏への転入組と転出組の割合はさして変わらないのであります。

地方に移転した人たちやテレワークを機にやや郊外に引っ越した方は「自然がいっぱいでいいよね」というコメントが目立ちますが、私はその7割は数年以内に首都圏に戻ってくるとみています。何故か、といえばそもそも地方暮らしから都会へ向かう流れは江戸時代を含め歴史的にずっと続いた人間行動の原点的なトレンドであり、オンライン化が進むから地方でもOKというそんな一面的判断で社会の流れは変わらないのです。コロナが終息して人々の生活に制約が無くなれば地方移転組の後悔が始まります。

労働に対する価値観はどうでしょうか?私はズバリ、労働から離脱をする人が増え、これが先々社会問題になるとみています。総務省統計局発表の2月の労働力調査を見ると面白い点に気が付きます。1年前と比べ役員を除く雇用者は全部で72万人減っているのですが、その内訳をみると正社員が16万人増えたのに対し、非正規が86万人減なのです。正社員増の中身は女性がプラス30万人に対して男性がマイナス15万人。では女性のプラスはどこから生まれたのかと言えばここは推測ですが、医療福祉関係が32万人増えているのでそちらに流れたとみています。つまりこの一年間で減ったのは非正規やアルバイトでどちらかといえば男性が負け組です。

もう少し掘り下げると全就労者はこの1年で71万人減っているのですが、失業者数は49万人しか増えていないのです。ではこの22万人の差は何処に行ったのかですが、多分、就職をあきらめたのではないかとみています。アメリカの労働参加率も統計上、コロナショックから半分しか戻せていないのですが、これは労働意欲を失った人が半分いるということです。これが怖いのです。今はそれなりに理由があり、補助金の残りもあるからいいけれどそれが切れたとき、元に戻れない人が続出するとみています。最近、若い人の詐欺や強奪事件を目にしますが、この手の事件の増加はあるのかもしれません。

それと最近とみに増えたのがにわかユーチューバー。その登録者数を競い合うことをマスコミが煽ることもあり、プロと素人が入り乱れ、壮絶な戦いとなっています。当然、お金が絡むので「成功すれば一攫千金」的で第一次ブームの時と違い、コロナの影響でより職業的なユーチューバーが増加しているように見えます。流行の中期的なトレンドで考えればユーチューバーの90%は早かれ遅かれ振り落とされるはずです。本を出したり、ブロガーで食える人がほとんど生まれなかったのと同じです。

ざっくばらんに二極化する社会を概括してみました。今はまだコロナ禍の影響が強く出ているのでポストコロナを予想するのは難しいのですが、1年経って試行錯誤する社会と世の中の変化がなんとなく見て取れる気がしませんか?

その中で勝利の方程式は何か、といえば今は耐え忍び、コツコツと積み上げることだと思います。世の中そんなにおいしい話はないと思うべきでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年3月8日の記事より転載させていただきました。