視聴者側が知らない「YouTuberだけが見えている風景」

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

Vladimir Sukhachev/iStock

「YouTuberとして動画を発信する側と、その動画を視聴する側との間には”チャンネル登録者”への大きな感覚のズレがある」という、興味深い主張がTwitterでなされた。

その動画チャンネルの良し悪しを決める価値基準の最たるものは、「動画のチャンネル登録者」という感覚を持つ人は少なくないだろう。チャンネル登録者が多いチャンネルは、多くの人の心を掴んだ優良なものであり、少ないチャンネルはそうではないという具合だ。このTwitterによると、視聴者側としてはチャンネル登録者が1万人までは「底辺」で、50万人以上で「それなり」という認識となっている。一方、YouTuber側に立つとまったく違う風景が広がっている。「1,000人超えるのはすごい!」という認識であり、これはあまりにも大きな差だ。

このツイートはYouTuberを中心に大きく共感を呼び、広く拡散された。筆者は世間一般的な認識で言うところの、底辺YouTuberをやっている立場であるため、この感覚の差のメカニズム、及び両者の気持ちがよく理解できるつもりだ。

ブログとYouTubeの大きな違い

ブログとYouTubeは、同じGoogleという親会社のプラットフォーム上で、読者・視聴者上へリーチするシステムという点で共通している。両者の違いは、あくまで「テキストと動画」という媒体の違いだけに思える人も多いのではないだろうか。だが、ブログとYouTubeでは決定的に異なる点があるのだ。

ブログは主に「検索」、つまり読者は「能動的」にブログ記事へリーチしに来るのである。SNSによる拡散、流入もあるが、検索ボリュームがほとんどというブロガーが多いだろう。ブロガーは検索時に流入元になるようにブログ設計を意識させられる。

その一方で、YouTubeには「おすすめ動画」としてアルゴリズムによってリコメンドが起こる。これは動画を検索する能動的なアクションに加えて、「受動的にも視聴者へリーチできる」ということだ。これはブログとYouTubeの決定的に異なるポイントと言える。YouTubeのリコメンドの波に乗る、というブログにはない戦略が存在するからだ。

他者の制作した動画を視聴後のユーザーに対して「他の人はこんな動画も見ています」とリコメンドしてもらうことで、そこから視聴者を獲得するメカニズムが働く。たとえば有名YouTuberが「車の自動運転のもたらす未来について」という人気動画を制作したとする。この内容に関連する動画、たとえば「○○さんの主張する、自動運転の主張に反論します」のような動画を出すことで、リコメンドされる可能性が出てくる。そうすることで、莫大は視聴者数を持つ、彼らの視聴者へリーチできる可能性がある。その際、見てもらえるかどうかは、動画タイトルだけでなく、動画のサムネイル画像も大きな決め手になるだろう。これもブログにはない要素の一つだ。

実際、筆者の持っている動画でよく再生されているものの1つは、トラフィック元が検索ではなく、とある有名人の関連動画が流入元になっていることが、データから明らかになっている。

ブログとYouTubeは似ているようで、異なる視聴者獲得戦略が必要になるのだ。

可視化されない99%のYouTuber

チャンネル登録者が1,000人を超えているYouTuberは全体の15%程度しかおらず、1万人超は3%程度と言われている。これはほとんどの視聴者にとって、99%のYouTuberの姿は可視化されていないことを意味する。つまり「存在していない」のと同義だ。

動画はテキストに比べて、視聴するのに時間がかかるメディアである。音も出るために、会社のオフィスでこっそりブログを見ている人も、仕事中にYouTubeの視聴は難しいだろう。ブログ以上に、YouTubeは視聴する環境が限られているため、視聴者側にとって可処分時間は極めて限定的である。認知されているYouTuberは本当に一握りになる事情は、視聴可能な時間の制約が大きい点も寄与する。

また、多くの人にリーチする強力なリコメンドがなされる人気動画は、YouTubeのアルゴリズムのお眼鏡にかなったものに限られる。結果として、動画を視聴する側にとっては、YouTube上でよく見かける動画はほとんどが数十万人・100万人超の巨大な動画チャンネルばかり目に入るのである。視聴者側に見えているYouTuberはトップ1%程度のものばかりなのだ。

こうした事情がYouTuber側と、視聴者側の認識に大きな差を生んでいるといえよう。

ビジネスツールとしてのYouTube

「YouTuberなんて不安定なので危険」

「YouTuberなど時給換算では稼げない」

などと言われる。だが、こうした主張についても、YouTuber側と視聴者側には認識にかなりの違いがあると感じる。YouTubeを集客ツールと割り切って用いるビジネスマンであれば、動画の広告収入はまったくあてにしていないケースも少なくない。

筆者は英語多読というスタイルで、英語をオンラインスクールで教えている立場だ。既存のスクール生、及び新たに英語多読に興味を持ってもらえるよう、YouTubeで英語学習のノウハウやモチベーションアップの動画を発信している。チャンネル登録者はこの原稿を書いている時点で、1,150人程度なので、動画付けた広告は、わずか2万円に満たない収益を生み出しているに留まる。だが、動画がもたらすキャッシュポイントの大元は別にある。動画をみた方の一部が「英語多読」の学習法に興味を持ってくれ、そこからオンラインスクールへの入会につながっているのだ。チャンネル登録者1,000人ほどいれば、月収100万円を超えるのは難しくない。だから、自分のビジネスや商品を持っているYouTuberはチャンネル登録者が1,000人を超えると、悪くない収益をあげている人は意外なほど多いのだ。

本稿で書かせてもらった通り、YouTuberに限らず、発信者側と視聴者側の間には大きな認識のズレがある。本稿がそのズレの理解に役立てれば幸いである。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。