「お前、ヒラタだろ」ハラスメント:本名を安易に言ってはいけない

プロレス界には伝説のマイクアピールというものがある。スーパーストロングマシン選手に対して、藤波辰爾選手が「お前、ヒラタだろ」とリング上で正体をばらしてしまった件があった。プロレスファン以外でも覚えている人がいるだろう。

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まあ、マスクマンというのは、変身する前から誰が正体かバレていることがある。体型やムーブで分かったりもする。そういえば、2代目タイガーマスクだった三沢光晴選手が、試合中に自らマスクを脱いだときは、その瞬間「みさわー!」という歓声がとんだっけ。

ただ、このレスラーの正体の名前を安易に言うというのは、とんでもないことなのである。ただ、これは、ハラスメントのようなものなのだ。いや、私自身も思わず、レスラーの正体の名前で言ってしまったことはある。心から反省する。

最近の新日本プロレスでは、2010年前後に入門、デビューした選手の活躍が目覚ましい。本名以外や、それをもとにしたリングネームで活躍している人も多数だ。高橋ヒロム、エル・デスペラード、マスターワト、SHO、YOHなどだ。正体や、本名がバレバレの人がいる。高橋ヒロムなどは表記以外は本名のままだし、SHO、YOHは本名をもとにしたものである。少し検索すれば、本名はわかる。いや、少し前は本名で活躍していた人もいる。しかし、あくまで彼らは高橋ヒロムであり、SHOであり、YOHなのである。

あくまで彼ら彼女たちは、そのキャラクターを年月をかけてつくりこんでいるし、かけている。その仕事をまっとうしているということである。プライベートな自分とも、それまでの仕事上で本名で活躍している自分とも異なるのである。ビジネスの上での人格ということになる。

安易に本名で呼ぶこと、それをバラすことは、本人の尊厳や、積み重ねてきたものを踏みにじる行為なのである。

これはプロレスラーに限らず、芸能人やライターもそうである。さらにこれは、本名をもとにした名前でもそうだと認識したい。名前をローマ字にした人、ひらがなやカタカナで表記した人などである。たとえば、私が「つねみ☆ようへい」などという芸名で活動していたとしたら、あくまで「つねみさん」と呼ぶべきであり。仕事で接する際や、ファンとして名前を呼ぶ際、さらには「つねみ☆ようへい」のアウトプットについて批評するときも「常見」と書くべきではないのである。そんなことを、盟友おおたとしまささんとTwitterでやりとりしつつ考えた。

これはまさに今、国をあげて議論になっている(はず)の選択的夫婦別姓問題や、仕事上の名前問題ともつながる話であり。深く考えたい。


編集部より:この記事は千葉商科大学准教授、常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2021年3月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。