碇翔士郎ちゃん餓死事件に想う --- 半場 憲二

寄稿

碇翔士郎ちゃん(当時5歳)を餓死させた疑いで、母親の碇利恵容疑者が逮捕された事件は、ママ友の赤堀恵美子容疑者による「洗脳やマインドコントロールがあった」と報じられるが「そういう話か!」でいいのだろうか。

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まず、赤堀容疑者には、人を操る能力や技術があったとは思わない。報道から読める彼女の特筆すべき能力は、人を欺いて財物を交付させ、臆面もなく使い果たす「詐欺」である。刑法第246条に規定する犯罪行為である。

次に、赤堀容疑者の異常性を個人の行為と断定し、トカゲの尻尾切りにするのもいただけない。組織は指導者に責任が及ばないよう反応する。政財官界に君臨し、日本の在り方を左右する巨大組織、創価学会による組織防衛のしくみに忖度がないかも注視する必要があろう。

フランスの社会心理学者ル・ボンは『群衆心理』で述べた。

群衆の最も大きな特色は次の点になる。それを構成する個々の人の種類を問わず、また、かれらの生活様式や職業や性格や知能の異同を問わず、その個人個人が集まって群衆になったというだけで集団精神をもつようになり、そのおかげで、個人でいるのとはまったく別の感じ方や考え方や行動をする。

碇容疑者もまた創価学会との異常な関係を見直すには至らなかった。朱に交われば赤くなるというが、何かを選択したり、どこに所属するかは、人生において、かくも大切なものだと再認識を促したい。

「信教の自由」がある。如何なる信教を支持しようとも自由であるという基本的人権がある。だが赤堀容疑者はボスの存在をちらつかせ、監視や周囲の悪口というデマやウソで不安な状態に陥れ、碇容疑者を集団に留めている。

『40人のLINEグループで悪口を言われている。』
『ボスが12台の監視カメラで見張っている。』

一般論からすれば「だからどうした!」「カメラはどこ?」と聞けば済む話だが、脱会者や敵対者には機関紙を使った罵詈雑言、徹底的な攻撃、嫌がらせが待つ。個人にとどまらず、家族や親族にまで及ぶ。洗脳やマインドコントロールをもちだすまでもない。創価学会員の手口である。

碇容疑者は「翔ちゃん、ごめんね。食べさせてあげられなくて」というメモを残している。母親として間違っているという自覚があった。それでも彼女は創価学会に所属し、赤堀容疑者との関係を続けたのである。

ママ友・赤堀容疑者が創価学会の活動に熱心だったかどうかは、この際大きな問題ではない。組織と人間は都合良くお互いを必要とし、都合が悪くなれば切り捨てられる。問題は常に不幸な話が付き纏い、悲惨な結末が待っていることである。元信者や部外者の多くが異常性を認識しながら放置され続けている。

ル・ボンは群衆心理の特色を、こう定義した。

衝動的で、動揺しやすく、昴奮しやすく、暗示を受けやすく、物事を軽々しく信じると。そして群衆の感情は誇張的で、単純であり、偏狭さと保守的傾向をもっていると。

集団と不可分な一人一人を形成する。群衆はその密度が高まると理性が弱くなり感情が昂ってくる。疲労や空腹が加わると傾向はいっそう強まる。そこに感動、攻撃、扇動的な言葉を叩きこめば、誰もが感化された自分に気づくだろう。

赤堀容疑者に人の心を操る能力や技術があったのではない。碇利恵容疑者の側にも、我が子が衰弱していくのを目にしながら、赤堀容疑者の利己心に応答するという土壌があった。共に犯罪の道へと歩んだのである。

組織というのは責任の所在を明らかにしようとはしないものである。指導者にまで責任が及ばないことを得意とする。

国と地方を問わず、政治家や公務員、司法警察、放送出版、芸能社会、教育とあらゆる機関に手を伸ばしている。

外部の者からの物言いには耳を傾けまい。よって内部から紀律を正し、信用を回復しようと自浄作用を発揮する勢力が生まれなければならないだろう。

もっといえば、残された長男、次男の行方はどうなるのか。創価学会の影響が及ばない世界へ引き戻すことが可能なのだろうか。と同時に児童虐待の日々、餓死に至らしめた所属・関係を明らかにする必要がある。捜査機関は創価学会に忖度せず、徹底的に真相を解明してもらいたい。

コロナ禍、経済的に苦しい人々が増加する。社会的距離も求められている。悩みや心配、相談事はインターネットやスマホをググれば事足りる。煩わしい人間関係を不得手とする世代が社会の一定数を占める時代となった。

危険なのは、こうした時代は、同様の事件犯罪は起こりやすい環境にあることだ。方針を定めてくれ、補償と引き換えに従うなど、私権の制限に抵抗を感じなくなり、強い指導者と単純な解を求める人間が増える。

今回の児童餓死事件も我々に多くの示唆を与えている。

(参考)
マインドコントロール(英: Mind control)とは、気づかれないよう他者の精神過程や行動、精神状態を操作し、自己の都合に合わせた意思決定・行動へと誘導すること。
洗脳(英: brainwashing)は、強制力を用い、人の思想や主義を根本から変えさせること。

■半場 憲二(はんばけんじ)
メンタル心理ヘルスカウンセラー 福祉心理カウンセラー 日本語教師