プレッシャーに克ち続ける

現在マリナーズで球団会長付特別補佐兼インストラクターを務められているイチローさんは、嘗てプレッシャーに「立ち向かってクリアしないと、何かを越えられない」と言われていました。イチローさんは「プレッシャーから解き放たれるのは不可能」との境地に至り、04年「その苦しみを背負ってプレーするしかない」との「軸」を定められ今日に至るようです。

上記に関し私見を申し上げるとすれば、プレッシャーが無い人あるいはプレッシャーを避けて行く人は、基本的に成長しないと思います。プレッシャーの中で自分を鍛えて行き、そのプレッシャーに打ち克ってこそ、人間ある意味成長して行くことが出来るのだと思っています。

5年程前『為せば成る 為さねば成らぬ』と題したブログで、五輪3連覇を成し遂げられた柔道家・野村忠宏さんの次の言葉を御紹介したことがあります--負けたらもう4年後しか取り返せない。日常には感じられないプレッシャー、不安、孤独と向き合う。何とかなるとか、楽しんでやろうとか、そういう甘い世界じゃない。

ステージは違えど私自身もこれまで『詩経』の小雅(しょうが)・小旻(しょうびん)にある詩の一節、「戦々兢々として、深淵に臨むが如く、薄氷を履むが如」き、そろそろと一歩を踏み出すような体験を何度もしてきました。「何とかなるとか、楽しんでやろうとか、そういう甘い世界」ではありませんでした。

次から次に押し寄せるプレッシャーに向き合い続け来る日も来る日も眠れぬ夜を過ごし、その中で如何にすべきかと考え抜かざるを得ない環境下に置かれた、人間それを克服して後大いなる自信が生まれ更にスケールが大きくもなるものです。そして当時を述懐するに、何故こうした馬鹿馬鹿しくなるような事柄でプレッシャーを感じていたのだろうか、というふうにも思って行けるようになるでしょう。

自信とは自らに対する信頼であり、困難を克服できた時に初めて本物になるものです。「艱難(かんなん)汝を玉にす」という言葉がありますが、本物の自信を得たいと思うならば、イチローさんのように敢えて「自分への負荷をかけてい」き、それと戦い克ち続ける必要があるのです。

成長する人は、プレッシャーを一つ乗り越えたら又次なるプレッシャーと向き合う、といった具合に、能動的に常々プレッシャーの中で己を磨き続けています。前途いつも新しい障害があり、それに挑戦しクリアする意志があるわけです。プラトンが「勝つは己に克つより大なるはなし」と言うように、所謂「克己心…自らに打ち克つ精神」は何をするにも一番大事だと私は思っています。

「つとめても なおつとめても つとめても つとめたらぬは つとめなりけり」という道歌があります。努力を止めたらば、成長はそこで止まってしまいます。プレッシャーを素直にプレッシャーと感じながらも、それに打ち克つべく自分自身を厳しく律し常に最善の努力をし続ける姿勢を持つことが大事なのです。人間的な成長の差は、そうした所から出てくるのではないかという気がします。


編集部より:この記事は、北尾吉孝氏のブログ「北尾吉孝日記」2021年3月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。